2019年の個人的ベスト本ランキング10冊をご紹介します。
今回は『新刊編』2019年発売本。
ネタバレ無しでそれぞれの本への偏愛ポイントを語ります。あくまで個人的ベストなので偏ったランキングではありますが、何かの参考になれば嬉しいです。
▼一番新しい「年間ベスト作品」記事はこちらです
1位:相沢沙呼『medium』
宝島社発行「このミステリーがすごい! 2020年版」の国内部門第1位にも選ばれた本書。
私ごときが語る必要もない傑作だが、語るとネタバレになってしまうため、多くを語れない一冊でもあります。
ミステリは、最終的に明かされる謎の質とその明かされ方が重要。読後感を大きく左右するものです。
どんなに途中が盛り上がったとしても、最終的に「えっ…?」というオチだとなんとなく全体が微妙な印象になる。
「終わりよければ全て良し」と言いたいわけではないけど、終わらせ方は最重要事項なのです。
本書の終わらせ方は、人間を2通りに導きます。
私は本書のせいで、自らのドM性を発芽してしまいました。どうしてくれるんだ!ありがとうございます。
twitterで仲良くさせていただいているはるたまさんは、逆にS性を刺激されたらしい…
謎も解明するし、自らの性癖も解明する画期的な一冊です。
誰かにネタバレされる前に、推して読むべし。
2位:芦沢央『カインは言わなかった』
誉田規一という、目的のためなら人をも殺しかねない超絶鬼畜団長率いるHHカンパニーなる劇団。
新作舞台「カイン」の主役に抜擢され、ダンサーとして目の前に垂らされた蜘蛛の糸を決死の想いで登ろうとする男。
その男が、公演二日前に謎の失踪を遂げる…
という導入なのですが、絶品中の絶品な一冊です。
何が凄いって、緊張感が極限すぎる。
ほぼ全ページを支配する圧倒的な緊張感、緊迫感。
高みを目指す意味、哲学、覚悟、挫折、恐怖、絶望(絶望なんて言葉を軽々しくは使ってはいけない)…。
人間という動物が、出来得る限り張り詰めた神経を維持しながら進んでいく本書に、読後の筋肉痛がマジ半端ありません。
これを読んでいると、いかに我々が腑抜けた生活を送っているかを痛感させられ、「働き方改革」なんて甘えに過ぎぬと猛省させられます。
そして読み終えた後の、タイトルの奥深さに溜息。
本書一発で、そんな怪作をしたためた芦沢央先生のファンになりました。おそらく血反吐を吐きながら脱稿されたことでしょう。敬礼!
↓個別記事はこちら
3位:スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
「館ミステリ+タイムループ+人格転移」という三重のギミックが搭載されたハイスペック海外ミステリ。
1位の『mediumu』は卓越したアイデアと、その魅せ方、展開力の絶妙さ。
2位の『カインは言わなかった』は、圧倒的緊張感を描ききる胆力のすごさ。
本書は、常人なら思いついただけで放り投げてしまうような超絶緻密なプロットと構成を前に、最後まで書き終えようとする意思の頑強さが素晴らしい。
この複雑さを一言で言い表すと、
「現在休載中の『HUNTER×HUNTER』の王位継承戦編をさらにタイムループさせて、ループするたびに誰かの人格が毎回変わる」
です。知っている人にはわかるはず。その複雑さを。終わらせることなど、できるのか…
作者のスチュアート・タートンさんは、想像を絶するねちっこい人だと思われます。絶対に敵にしてはいけない。絶対に姑になるべき。この人に目をつけられたら、末代まで祟られることでしょう。
私も一読では細かい流れは完全に理解できませんでしたが、本筋はその複雑さとはまた別にしっかりミステリしてます。だから読後感は爽快。
今回のランキングで唯一の海外作品です。ぜひ挑戦あれ。
4位:井上真偽『ベーシックインカム』
もはやまんざら夢物語でもなさそうな近未来SF型ミステリの短編集。
テーマは人工知能や遺伝子操作、人間強化、VR…と多岐に渡ります。共通するのは、1.5歩くらい先の未来の話で、リアリティがある所です。
「人間ってなんだっけ」という大事な心や情の部分を考えずにはいられない作品集。
技術進化の先の人間の役割って結構重要なテーマですよね。
ある意味、これからの道徳の教科書に採用してもいいレベルの内容だと思うんです。
今の時代だから読んでおくべき一冊。そんな理由からの4位です。
↓個別記事はこちら
5位:道尾秀介『いけない』
4つの短編からなるミステリ。1位の『medium』でも言いましたが、ミステリは終わらせ方が大事。本書はその極致です。
帯に書いてあるのでネタバレにならないと思いますが、各章末に1枚の写真が載っています。
その写真を見てドタマかち割られよ!という一冊。
それぞれの短編自体の闇レベルが高くてなかなか陰鬱なのですが、こういう終わらせ方もあるのか…と感動しました。
6位:村田沙耶香『生命式』
ありとあらゆる常識を破壊して焼け野原にしてくれる12の短編集。
頭をトンカチで叩かれたような衝撃を受けつつも、どこか心が満たされていくような不思議な感覚を味わえる、とても自由な一冊です。
通常の人であれば「ちょっと受け入れられないよコレ」という内容のオンパレードを、読みやすくポップに仕立てられています。
表題の『生命式』も良いですが、オススメは『パズル』。本書で唯一不安感のある作風で、異常が異常として映る「人間の感覚で良かった」と思える短編。
個別記事でネタバレしつつ、どんな概念をぶっ壊してくれるのか書きましたので、よろしければこちらもお読みください。
↓個別記事はこちら
7位:澤村伊智『予言の島』
澤村先生の作品は『ぼぎわんが、来る』以来2作目なのですが、この本、神がかって気持ち悪いです。
何が気持ち悪いかはぜひ読んでもらいたいのですが、読む前に帯の言葉「すべての謎が解けたときが、1番こわい。」を見て、何か違和感があったのですが、読み終えた後に納得。
「再読率100%」の煽り文句も伊達じゃないと思いました。
『ぼぎわんが、来る』の時も思いましたが、澤村先生の文体は今風というか、サクサク読めるとっつきやすさ、リズム感の良さがあります。
意図的にやってるとしか思えませんが、舞台が関東ではないということも相まってさらに独特な読みやすさを発揮しています。
なのに「ある意味」読みにくい。それが巧妙な罠なのですが、我々凡人は誘われるままに読み進めなければならないのです。
嗚呼っ…!この気持ち悪さ、誰かと共有したいっ…!
8位:芦田愛菜『まなの本棚』
本書だけジャンル不明というかミステリでもなんでも無いですが、ぜひランクインさせたかった一冊です。
この本は、我が子に才女・芦田愛菜の才能をコピペするための、教育パパママ必読の書であります。
単純によくある「●●がおすすめする本●●冊!」という本なのですが、「芦田愛菜15歳」という才能の一端を垣間見れるこの背徳感、ヤバさを感じることはできるでしょうか。
時代が時代なら、発禁本ですよ。貴族にしか許されない上級国民が回し読みできる機密書類ですよ。まさに現代のオーパーツ。ある意味ミステリー。
この本を読んで、大人は反省したほうがいい。私は読後1時間位反省して、またいつもの日常に戻ってしまったことはここだけの秘密ですが、それくらい実践って難しいものなんですよね。
個別記事でも布教しています。
↓個別記事はこちら
9位:歌野晶午『間宵の母』
救いなし、闇要素たっぷり、ホラーでミステリ。もう何も言うことはない。読んでダークサイドに堕ちていきましょう。という内容。
数人の登場人物がいて、「間宵家」にあたる人物も複数登場しますが、なぜ「母」なのか。
それは、この母がなかなかの人物だからなのです。
闇は多いけど、フィクション感が強いのでトラウマになることなく一気読みできると思います。
それでも、絶対に子どもには読ませてはいけない黒き一冊です。
個別記事で完全ネタバレしてますので、ネタバレOKな方はぜひ。
↓個別記事はこちら
10位:北見崇史『出航』
KADOKAWAの「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」第39回優秀賞に選ばれた『血の配達屋さん』が『出航』にタイトルを変えて再出航。
半端じゃなくどうしようもないグロテスクホラーエンタメノベルです。
開始20〜30ページほどで「あ、これヤバいやつだ」と気付き、しかし後ろを振り返った時には既に暴走特急は発車してしまっていた…
という感じですが、読みきらなくても大丈夫。というよりも油断していると、いつでも窓から振り落とされます。並のメンタルでは読みきれません。
エンタメのくせに読者にストレス耐性が求められるという、理不尽極まりない闇の書。だが、それでいい。
乱暴に見えて骨子はしっかりしているので…しているのか?してます。じゃなかったら、「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」で優秀賞なんて獲れません。
怖いもの見たさで手にとって見てください。
注意点としては、ネコ好きで真面目な方はちょっと避けたほうがいいかも。表現が稚拙ですが、とんでもないことになるので…
いかがだったでしょうか。個人的2019年ベスト本ランキング。
あなたの2019年ベスト本ランキングも、ぜひ教えて下さい。読みます!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!