44冊目『カインは言わなかった』芦沢央
暗黒に差す一条の光。その光を手繰り寄せるために命を懸けた者達の物語。
表現者の苦悩、高みを目指す者の希望とその裏側が描かれた「慟哭」ミステリーー慟哭ミステリって、何?その疑問は、読めばすぐ氷解します。
全編を支配するただならぬ緊迫感に、戦慄しっぱなし。読後は血圧が上がり筋肉痛になるほどの勢い。個人的には大好き。書き手の芦沢央先生のメンタルを心配するほど魂を削りながら書かれたであろう一冊です。
『カインは言わなかった』芦沢央
(文藝春秋)
発売日:2019/8/28
ページ数:357ページ
芦沢央『カインは言わなかった』はこんな人にオススメ
- 息の詰まるミステリが好き
- ものづくりしている人、表現者(舞台関係ならなおよし)
- 読みながらヒリヒリする感覚を味わいたい
- 働き方改革なんか、クソくらえだ!と思っているストイックな人には超オススメ
芦沢央『カインは言わなかった』の個人的読みどころ
芸術にすべてを懸けた男たちの、罪と罰。
エンタメ界のフロントランナーが渾身の力で書き上げた、
慟哭のノンストップ・ミステリー!
「世界のホンダ」と崇められるカリスマ芸術監督率いるダンスカンパニー。
その新作公演三日前に、主役が消えた。
壮絶なしごきにも喰らいつき、すべてを舞台に捧げてきた男にいったい何があったのか。
“神”に選ばれ、己の限界を突破したいと願う表現者たちのとめどなき渇望。
その陰で踏みにじられてきた人間の声なき声……。様々な思いが錯綜し、激情はついに刃となって振るわれる。
『火のないところに煙は』で本屋大賞ノミネート。
『許されようとは思いません』続々重版中。
もっとも次作が待たれる作家の、実に2年ぶりの長篇大作!
本書の個人的読みどころを3つ上げるとすれば
- 理不尽ドS演出家「世界のホンダ」の鬼畜っぷり
- 何事もやり過ぎると周りに迷惑をかけるんだな…と本気で自己反省できる
- 読者と著者のメンタル消耗戦
です。
1.理不尽ドS演出家「世界のホンダ」の鬼畜っぷり
本書を語る上で外せない強キャラ、世界のホンダこと誉田規一。この人は、はっきり言って鬼畜です。
より良い作品を作るためなら、人も殺しかねないほどの極めてクレイジーな舞台作家。文字通り命を懸けて作品に取り組む劇団員も、ほぼ駒扱い。何事にも決して妥協を許さない。彼の通った後はぺんぺん草も生えないヤバいやつ。
どれくらいヤバいかというと、
- 主役の殺人シーンを演じさせるために、極限状態に追い込む。
- 殺人シーンにリアリティを持たせるために、本当に肉に包丁を刺させてみる。
- 徹底的に追い込む場合、高確率でその人が幻覚を見る。
- 追い込まれた人が実際に死んでしまったケースもある。
- それらに対して、世界のホンダは反省などしない。
怖すぎるよ。
ただ皮肉な事に、彼の生む作品があまりに素晴らしく、評価されてしまうので、多くの猛者がホンダの舞台で一花咲かせたいと挑み、一握りの者を残して皆散っていく…という構図です。
このドSっぷりが、作品のキーにもなっている欠かせないものなのですが、良識ある方々や昨今の「コンプライアンス!」と叫ぶPTAの方々が見たら、それはもう怒るでしょうね。不適切です!と。
しかしそんなことより、それでも表現者達がすがる蜘蛛の糸、という人間にしかできない「ストイックに物事を極めようとする」という尊い行為に感銘を受けてほしいし、そこで自分の人生も大いに振り返ってほしい!と思います。
ちなみに『カインは言わなかった』の「カイン」も、ホンダの舞台の最新作のタイトルです。アベルとカイン。旧約聖書に出てくる「人類最初の殺人」を行ったカインを題材にした舞台です。
2.何事もやり過ぎると周りに迷惑をかけるんだな…と本気で自己反省できる
それでもやっぱり、やりすぎは良くないな…と、世界のホンダに翻弄される人達を見ると思うでしょう。それでいいんだと思います。このバランスを取ろうとする心の量こそが大人の証です。
やりすぎは良くない。でも本の中でだったら、めいっぱいやりすぎて欲しい!!
そんな欲望を叶えてくれる一冊だと、ありがたく感じています。
3.読者と著者のメンタル消耗戦
これは何度でもいいますが、とにかく全編を通して緊迫感が高いのが特徴。読んでていい意味でホントにしんどかったです。読後、私はなぜか尻の肉が筋肉痛になりました。どこに力が入ってたのか…
読み手のメンタルは確実に消耗するのですが、逆に考えて、著者のメンタルの方がよっぽどダメージを受けているんではないかと思ったのです。じゃなきゃこんなヒリついた作品は書けないだろうと。
読みながら本気で芦沢央先生のメンタルを心配してしまいました。この一冊を仕上げるのに、どれだけの血反吐と格闘してきたのか…私は本書が初芦沢先生でしたが、一気にファンになりました。そして読了後、長く続けていただきたいので、あまり無理せず無理して欲しい…と矛盾する気持ちと戦うというエキシビジョンマッチまで起きた始末。
最後はしっかりミステリとして完結しているし、納得できるラストになっていると思います。文章自体は読みやすいので、ぜひ途中で挫折せず最後まで読み切ってほしい一冊です。
『カインは言わなかった』芦沢央
(文藝春秋)
発売日:2019/8/28
ページ数:357ページ
芦沢央『カインは言わなかった』の目次
第一章 降板
第二章 絵の中の嵐
第三章 一日前
第四章 群舞
第五章 その前の世界
エピローグ
芦沢央『カインは言わなかった』の読了時ツイート
64冊目
芦沢央『カインは言わなかった』至高を目指す表現者の恐怖と覚悟。
ほぼ全編を占める圧倒的な緊迫感。読み進める程に異様で、喉が乾く。
絶景を目指す意味とは?価値とは?「働き方改革」など甘えに過ぎぬ。
読後ハンパない筋肉痛が襲う怪作。題名の奥深さに、全身が粟立った!#読了 pic.twitter.com/hwD5EC0yyH
— うまいごす@《積読合衆国》終了!結果発表中 (@umaigos) November 8, 2019