『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦(森見本全冊レビュー、4冊目)
『四畳半神話大系』とならび、森見作品の出世作であり代表作。諸君、異論があるか。あればことごとく却下だ。これから読む人のために、ネタバレなしでご紹介します。
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』の目次とあらすじ
- 第1章:夜は短し歩けよ乙女
- 第2章:深海魚たち
- 第3章:御都合主義者かく語りき
- 第4章:魔風邪恋風邪
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作。
「BOOK」データベースより
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』読了時ツイート
森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』が起こした3つの化学反応
化学反応①:「腐れ大学生路線×女性主人公」
『夜は短し歩けよ乙女』は男性「先輩」と女性「黒髪の乙女」のダブル主人公。交互に語られる一人称が、とてもリズミカルで愉しい。
ダブル主人公と言っても、作品名の通りメインの主役は「黒髪の乙女」ということになります。
そして本作は森見登美彦作品の代名詞である「腐れ大学生もの」(『太陽の塔』『四畳半神話大系』『四畳半王国見聞録』『四畳半タイムマシンブルース』などが有名)の作風の極致と言えます。
なぜなら、「腐れ大学生もの」の作品はその性質上基本的にクセが強く、人を選ぶ作品になりやすい。それが味ですが。
そこに「黒髪の乙女」なる天然キャラの女性主人公のキラキラしたファンタジー成分がドバドバ注入されたことで、明らかにエグみは減少。
しかしそれで「腐れ大学生もの」作品本来の味が損なわれるかと思いきや、とんでもない美味なる作品に仕上がってしまっているのです!!
これを化学反応と言わずしてなんと言おう…!
化学反応②:「京都の描写×極彩色のファンタジー」
私の森見登美彦作品を好きな理由の一つが「ありありと情景を描写する巧さ」です。
私は生まれてこの方修学旅行+数回ほどしか行ったことがなクセに、森見作品を読むと京都に行ってその土地の、街の、祭りの、夜の空気を吸っている気になれるほどのリアリティで京都(森見氏曰く「偽京都」)を感じられる。
土地勘のある人が読めば、森見作品の京都の描写はその人の記憶を鮮やかにフラッシュバックさせることでしょう。ああ、羨ましい!
もちろん本作もその実力はいかんなく発揮されています。
この表現力と、『夜は短し歩けよ乙女』の極彩色のファンタジーの相性が最高にバツグン過ぎるのです。
先斗町の路地裏のBARで繰り広げられる酒宴、下鴨神社の古本市に漂う草木と古書の香り、京都の大学中を所狭しと演じられるゲリラミュージカル、京都全体に吹き荒れる風と風邪の台風…
リアリティとファンタジーは対極にあるもの。でも、どちらも妥協のないスタンスで描くからこそ、読んで愉しく心に残るものになるのでしょう。
本作を仕上げるために相当苦労した、というか無理したんだろうな…と。見事に書き上げた森見氏に盛大な拍手と大きな毛布をかけてあげたいです笑
化学反応③:「原作×メディアミックス」
①、②の化学反応があったからこそ、『夜は短し歩けよ乙女』はアニメ映画化もされ大成功を収めたのだと思います。
そして漫画化、舞台化…と『夜は短し歩けよ乙女』の世界観を別の形にして世の中に広めたいと思う人達がたくさん生まれたのではないでしょうか。どのバージョンも原作への愛に溢れています。
小説以外の媒体になる場合、絶対に必要な三点セットも本作は兼ね備えています。
『夜は短し歩けよ乙女』アニメ映画
『夜は短し歩けよ乙女』漫画
『夜は短し歩けよ乙女』舞台
←舞台公式サイト(クリックするとリンクします)
「先輩」役:中村 壱太郎、「黒髪の乙女」役:久保 史緒里
『夜は短し歩けよ乙女』オーディオブック
おわりに:作品名を曖昧に変換
YOASOBIは好きでよく聞きます(どうでも良い情報)
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!