40冊目『間宵の母』歌野晶午
「間宵家」に宿る狂気と呪いの因縁…
「関わりたくない!」と心から思える闇果汁たっぷり濃縮還元100%のホラー+ミステリ。
良い子は決して、読んではいけません。何かが宿ってしまいますよ?
歌野晶午さんデビュー30周年!の記念にしてはやけに黒色が強い怪作です。
『間宵の母』歌野晶午
(双葉社)
発売日:2019/11/20
ページ数:286ページ
『間宵の母』はこんな人におすすめ
- ホラー+ミステリが好き
- 多少救いのない方が興奮する
- 家族の闇を感じたい
- 子どもには読ませないと約束できる
『間宵の母』の読みどころと感想
小学三年生の詩穂と首江子は親友同士だったが、紗江子の母の再婚相手である若い義父と詩穂の母が失踪した。その日から紗江子の母の精神状態は普通ではなくなる。詩穂も父親から暴力を受けるようになり、児童養護施設に入れられてしまう。その後、二人は悪夢のような人生を送ることになるのだが、実は驚くべき真実が隠されていた。著者最恐のホラー・ミステリー。
ホラーの要素とミステリの要素を兼ね備えた本書。しかし、その事前情報がなければ、途中まではホラーとして読み進めることになるんじゃないでしょうか。それくらい、どこまでが現実なのかが分からなくなるような、現実ではないと思いたくなる様な内容が飛び出します。
父親の駆け落ち、母親の発狂、幼馴染みの堕落…親しい人間がとにかく闇にまみれていく姿は目を背けたくなります。多少行き過ぎた表現もありますが、適度にリアル。
個人的に、ものすごく関わりたくない間宵家。中でもダントツに母に関わりたくありません。

一気にホラーの要素がミステリとして氷解していく最終章は、気持ち良いけど気持ちが悪い。意味がわかるとよりおぞましい話に妖怪変化します。こんなもの、子どもには読ませられません!完全にR18です!(エログロではない)
読みどころは2点。
- 所々発生する、明らかに現実がプッツリ切れる事の意味は?
- 「間宵の母」は結局何者で、何をしているのか?
こちらを意識して読み進めると、面白いと思います。
↓下記よりバッチリあらすじをネタバレしていきます!
『間宵の母』の登場人物
間宵紗江子 | 間宵家の一人娘。己代子の連れ子。 |
間宵夢乃丞 | 紗江子の父。近所の母子から絶大な人気。西崎早苗と駆け落ち、蒸発。 |
間宵己代子 | 紗江子の母。夢之丞に蒸発された後、発狂。 |
間宵和香奈 | 紗江子の一人娘。 |
西崎(栢原)詩穂 | 紗江子の小学時代の親友。 |
西崎早苗 | 詩穂の母。夢之丞と駆け落ち、蒸発。 |
摂津夏純 | 紗江子の大学時代の同級生。取り巻きの多い「キャンパスクイーン」「姫」。 |
八塚元彦 | 夏純の取り巻きの一人。何としてでも夏純をモノにしたい。 |
岩室恵美 | 紗江子の職場の先輩。 |
岩室美羽 | 岩室家次女。 |
栢原蒼空 | 栢原詩穂の息子。 |
『間宵の母』のあらすじ(ネタバレあり)
第1部:間宵の父
「おはなし」が上手で母子から人気の間宵の父
小学三年生の間宵紗江子の父、間宵夢乃丞はそのジャニーズばりの爽やかさ、明るさに加えて、「おはなし」がとてもリアルで上手!と近所の子ども達から母親達から大人気の存在。
紗江子の親友、西崎詩穂も、夢乃丞のお話が聴きたいと紗江子にせがみ、順番待ちの末ようやく聴くことができた。
ハロウィンのおはなしはとてもリアルで、例えじゃなく魔女やミイラが本当にそばにいる。おどける怪物達と楽しく過ごす詩穂だったが、徐々に雲行きが怪しくなる。
怪物達は街を躊躇なく破壊し、人々を殺戮し始める。恐怖に自宅に逃げ帰るも、母親までもがカエルの皮をかぶった羊の化物で、母の人肉料理を食わされてしまう。
叫ぶ詩穂。すると何事もなかったかのように、目の前には普段通りの母が立っていた…
間宵の父の駆け落ちから始まる悪夢
ある日、詩穂の家を訪ねてくる紗江子の母、間宵己代子。そして突きつけられたのは、「西崎早苗が、間宵夢乃丞と駆け落ちした」と言う事実。早苗は二度と戻らなかった。
間宵己代子はそれ以来豹変。狂ったように西崎家を糾弾し、早苗を迫害する悪意ある尋ね人ポスターを町中に貼りまくり、家の前でもまくしたて、詩穂までいじめを受けることに。
父親からは虐待を受けはじめ、詩穂は児童養護施設に入り、自暴自棄に。
集団暴走、飲酒、同棲、DV、置き引き、補導、児相送還、脱走、援交、自傷、同棲、妊娠、中絶、薬物、DV、恐喝、結婚、妊娠、出産、虐待、離婚、ネグレクト、養護施設、自傷…詩穂は、急激な人生の下り坂を転げ落ちてゆく。
第2部:間宵の母
「姫」の願いを叶えるため、紗江子を尾行する取り巻きの男
時は経ち、紗江子は大学生。化粧っ気無し、服装は貧相、いつも独りぼっち。
容姿端麗のキャンパスクイーン、「姫」である摂津夏純は、そんな紗江子が無性に気に食わないとこぼす。
取り巻きの一人である八塚元彦は、取り巻きから一歩差を付けて夏純の気を引くために、紗江子を退学もしくは不登校に追い込む事を決意する。
帰宅する後をつけ紗江子の家に辿り着く。が、その異様さに言葉を失う。
隣家との間に築かれた、関わりを断絶する高い壁。破れ剥がれかけた尋ね人ポスター。伸びきった雑草が支配する庭。玄関に貼られた呪符の数々。
近所の人に話を聞くと、間宵己代子は元やり手の女社長。連れ子(紗江子)がありつつ歳の離れた若い男(夢乃丞)と結婚。西崎早苗と駆け落ち蒸発して以降、発狂したらしい。
もっと情報を探ろうと家に忍び込む元彦だったが、それが運の尽きだった。
家中に乱雑する呪具、怨嗟の落書き、狂った様に大声で独りごちたかと思えば、地獄の念仏を唱和する己代子。ここは、ただの地獄だ…
「逃げなければ」
危険を感じる元彦だったが、押入れに隠れてしまい逃げるタイミングを逸する。そして偶然、押入れの元彦に紗江子だけが気づく。
四面楚歌の男の最期
元彦は絶対絶命のピンチを乗り切るため、紗江子に恋をして、もっとよく知りたいと家まで付いて来たんだと嘘をつく。
「私が好きだという証を見せてください」
仕方なく抱擁し、頭を愛撫する元彦だったが、唇が触れ合った瞬間、何かが弾け、本能に任せて快楽の沼を漂った。
卵の様な輪郭に、つるんとした白い肌、細く尖った眉、エクステいらずの長く密生した睫、二重の瞼につぶらな瞳、肉厚で艶やかな唇…
いつしか元彦は、紗江子を摂津夏純とみなして抱いていた。かなわぬ恋を成就させる為、欲望にまかせて「摂津夏純」の体をむさぼり続けた。
ぐったりしていた元彦が気づくと、ベッドに裸でいた「本物」の摂津夏純に、早く消えろクソ野郎と涙ながらになじられる。
扉を開けて現れた、夏純の交際相手。うろたえる元彦。瞬間、側頭部に勢い良く振り抜かれたゴルフクラブが突き刺さり、元彦は絶命した。
第3部:間宵の娘
扉を叩く母
時は流れ、紗江子は家から離れた渡辺建設と言う会社でお茶汲みとして働いていた。これまで同様、人とは壁を作りながら。
卒なく働いていたが、おかしな点が一つあった。
月に一、二度ほど「母」が姿を見せず事務所の裏手のドアを乱暴に叩き、お弁当を紗江子に届けてそのまま去っていくのだ。
ドンドンドンドンドンドンドン
先輩の岩室恵美は、その事を不審に思っていた。
何せある時、勢い余ってドアの窓ガラスを割ってしまった。そこに弁当を投げ、拾った紗江子が大怪我したのに、母は顔も見せない。怪我をした紗江子だけが謝っていたのだ。
非常識な紗江子の母に嫌味を言ってやろうと、休日恵美は紗江子の自宅を尋ねる。玄関から顔を出したのは、赤縁眼鏡の女の子だった。紗江子の娘だと言う。子持ちとは初耳だった。
紗江子に会えず、近所に聞き込みをする恵美は不可解な事実を知る。
「紗江子の母親は、数年前に事故で死んでいた」。
混乱する恵美だが、一つの真実に到達する。
「事務所にやってきた紗江子の母親は、紗江子の自作自演だ」という事。
ガラス片は室外に飛び散っていた。それは、事務所にいた人間が割った事を物語っているのだ。しかし何故そんな事を?
紗江子の告白と、死のかくれんぼ
ある日恵美は紗江子を車で自宅へ送る。そこで問い詰められた紗江子は告白を始める。
玄関にいた女の子は間宵和香奈。紗江子の娘だということ。
和香奈は生まれつき角膜混濁という、放っておくと死に至る目の難病を抱えていた。治療の方法は角膜移植。
偶然自宅での事故で死亡した己代子の角膜を移植して、和香奈の治療が成功した。
母への感謝と気持ちから、母が今もいる振りをして演じる事で、母の存在を紗江子の中に残そうとしていた事。
そして和香奈は、己代子の事もあり学校では避けられている事…
真実を知り同情した恵美は、和香奈と同い年の娘を連れて遊びに行くと約束する。
紗江子の家を訪ねた恵美と、次女の美羽。和香奈とすぐ意気投合して遊び始める。
良かった。のどかな時間が過ぎる。
2人がかくれんぼをして、美羽が見つからなくなったと言う和香奈。
皆で家中を探す。
キッチンのオーブンで見つかったものは、黒焦げになった肉の塊だった…
狂気の娘
美羽の葬儀。焼香をあげにきた紗江子と和香奈だが、恵美は参列することを拒む。
検証の結果、キッチンでの出来事は美羽の不注意とオーブンの不調による事故と判明している。
しかし、わかっていても感情的に紗江子のことを許せず罵倒する恵美だった。
その時、6歳の和香奈が大人顔負けの饒舌で話を始めた。この出来事は不注意による事故。すべての責任は、親である恵美にある。それを棚に上げて紗江子を責めるのはお門違いだと。
意外な状況に唖然とする恵美だが、子供に言いたいことを言わせて最低な親だと再び紗江子のことを罵り始める。
興奮が極限に達した恵美は、受付の文鎮を振りかぶり、振り下ろした。
赤い飛沫が噴きあがった。
第4部:間宵の宿り
復讐に燃える男
児童養護施設「冀望の園」で暮らす男、蒼空(あお)。栢原詩穂の息子だが、虐待により離れ離れ。父親は離婚している。
蒼空は、両親である二人と、不幸の原因を作った西崎夫婦、間宵夢之丞の三人を殺すと決め、生きる糧にしてきた。
ある日蒼空は栢原祐作を見つけ、今の妻と合わせて二人とも殺害することに成功した。かと思ったが、気がつくと施設で倒れていた。園の外で入手した脱法ドラッグでトリップしていただけだった。
ドラッグの使用を咎められ、警察に届けられることに。その前に蒼空は園を脱走。詩穂の遺品を辿り、間宵家へ。そこで紗江子と出会う。
蒼空は紗江子に対して、自身の境遇と、その原因の推理を披露する――。
語られる真実
- 間宵夢乃丞は小児性愛者
- 間宵夢乃丞の「おはなし」は、子どもにドラッグを与えてしたもの
- トリップする子どもをいたずらしていた
- おはなしを聴いた詩穂は、途中でバッドトリップしてしまった
- 早苗が娘の異変を知り間宵家を訪ねる
- 間宵己代子は、間宵夢乃丞の行為を知り夢乃丞を殺害
- 口封じに早苗も殺害
- 殺人を隠蔽し、自らは狂った振りをした
- 夢乃丞と早苗の密会写真は合成写真
紗江子も真実を付け加える。
- 夢乃丞の真の狙いは、己代子の連れ子の紗江子
- 四六時中、紗江子は夢乃丞に犯され続けた
- 夢乃丞の命令で、紗江子の友達を生贄にした
- 詩穂の一件で己代子は夢乃丞の異常な性嗜好を知る
- 娘を守る為、己代子は夢乃丞と早苗を殺害した
- 夢乃丞と早苗の密会写真は合成写真
不幸自慢するなと逆上する蒼空に、突如ペットボトルが投げられる。投げたのは女子中学生の、間宵和香奈だった。しかし様子がおかしい。
和香奈は自らを「間宵己代子」だと言う。紗江子も、「和香奈だったが、その後母になった」ので母です、と言う。
訳がわからない蒼空だが、死体が庭に埋まっているはずだと指摘する。しかし庭にそんなものはないと言う己代子は、家の押入れの奥の地下室へと蒼空を案内する。
己代子が掘った地下室には、祭壇があった。その奥に2つの死体があり、ここで毎日死者を弔っていたのだと言う。
しかし、死者を弔う卒塔婆は5本あった。3本目は、八塚元彦へのものだった。
- ある日家の押入れにいた元彦が何をしようとしていたか自白させる為、紗江子がドラッグを盛った
- 気を大きくした元彦は帰宅して夏純の家へ行き、レイプする
- そして夏純の交際相手に殺害された
4本目は、岩室美羽。
- かくれんぼの途中、美羽は穴を見つけてしまった
- 偶然事故で死亡した(真偽は不明)
- 母親の恵美は文鎮を振り回し傷害事件を起こした
気づくと地下室に閉じ込められていた蒼空。ペットボトルに薬が盛られていたのだった。
5本目の卒塔婆は、自分のものだったのか…死を覚悟するも、紗江子に救われ這い出す事ができた。
目の前には口と手足をテープで封じられた己代子が横たわっていた。これから紗江子は己代子を殺すという。そして、紗江子はもう一つの真実を語りだす。
- 和香奈の手術までは、紗江子は己代子を憎んでいた
- 和香奈を助けるため、紗江子は己代子を階段から突き落として殺した(事故として処理)
- 手術成功後、紗江子は「お母さんのおかげ」と感謝の言葉を和香奈にかけ続けた
- 己代子は、自らが狂った経緯や人間関係、その人生をすべてを記録したノートや音声テープを残していた
- 和香奈は生まれつきのサヴァン症候群(天才)だった
- ノートを見つけ、全てを暗記して行動や声色、口癖まで完璧にコピーして「己代子」になった
- いつしか和香奈に「お前は私を殺した」と言われる様になり、立場が逆転した
そして紗江子は、「わたしにできることは、終わらせることだけなのです」と呟いた。
家に、灯油に火を放つ紗江子。逃げ出す蒼空。
遺品を忘れたことに気づき、燃え盛る家に戻る蒼空。
燃えながら呪詛を唱えて現れた和香奈(己代子)に腕を掴まれてしまう。
「生きることこそわが宿業生きることこそわが宿業生きることこそわが宿業生きることこそわが宿業生きることこそわが宿業」
家は全焼し、紗江子と己代子は死亡した。
最後の真実
病院で目覚めた蒼空。一命は取り留めたようだ。しかし、脳内におかしな声が響く。
その声は、己代子だった。声は真実を語りだす。
- 和香奈はサヴァン症候群でもなんでも無い
- 角膜移植後、角膜を母体、和香奈の肉体を宿主として、己代子は和香奈を徐々に乗っ取った
- 燃える間宵家で蒼空の腕と美代子の手は一部癒着している
- 蒼空を乗っ取るのも時間の問題だ
絶望する蒼空は紗江子の言葉を思い出す。
「わたしにできることは、終わらせることだけ――」
蒼空にできることも、終わらせることだけだ。
まだ栢原蒼空としての意識が残っているうちに、このボールペンを耳に突き刺せば良いのだ…(終)
『間宵の母』歌野晶午
(双葉社)
発売日:2019/11/20
ページ数:286ページ
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