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安部公房『箱男』考察ネタバレ|「箱=匿名性」に囚われた人間の欲望と罠の不条理世界を読み解く

48冊目『箱男』安部公房

箱男とは、結局一体何なのか。「箱」という世界の境界線を媒介して行われる「見る/見られる」「匿名/実在」「主観/客観」「欲望/冷めた目」の罠・言葉の迷宮…安部公房氏による超一級の不条理小説。

今回、記事を書くために再読しました。2回目でもやはり難解な印象でしたが、その分見えてくるものも初回とは変わって、新鮮な気持ちで楽しめました。そして結局最後は初回と同じように安部公房氏の罠にまんまと堕ちてしまう…という、目眩のする劇薬。安価で合法的にトリップできるオススメの一冊です。

難解と言っても、完全に理解するのが難しいだけで、読むこと自体は難しい本ではないので、ぜひ一度はこの世界観を体験してもらいたい一冊です!
注意
ネタバレを多く含むので、未読の方はご注意ください。

この記事では『箱男』についてネタバレしながら考察していきますが、一つ言うとすれば、本書は謎を解決するのが目的の本ではなく、いかに安部公房的不条理世界に酔い、愉しめるかが重要な作品なので、完全な正解もないし、謎が解決するとは限りません。個人的な考察も含めて書いていきますので、間違っている点もあると思いますが、その点ご了承くださいね。

『箱男』

(新潮社)
発売日:1973/3
ページ数:248ページ

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新潮社
¥605 (2020/05/26 08:12:48時点 Amazon調べ-詳細)

 

目次

安部公房『箱男』の愉しみ方

まず、本書のストーリーではなく、「どんな作品か」ということを理解しておくとよいでしょう。

『箱男』は、小説であって小説でないような、主役がいるようでいないような、あやふやな世界観と構成を持つ作品です。一言で言うと、不条理小説。

真面目に筋を追って完全に理解しようとすると頭が痛くなってくるかもしれません。気になる所があっても止まらずに、時間の流れとともに前へ前へと読み進めるのが良いと思います。

引っかかる点や、自分を振り返って何か感じる所が多々出てくるはずですが、浮かんでは消えるその違和感を都度楽しみながら、こだわらずに読んじゃう。という読み方がおすすめです。だって答えはその時の自分が決めるのだから。

 

安部公房『箱男』3つのキーワードとテーマ

『箱男』の個人的な3つのキーワード・テーマはこちらです。

  1. 「見る/見られる(覗く/覗かれる)」+「匿名/実在」
  2. 浮遊する“主人公”という存在
  3. すべては箱男の壮大な「言い訳」

1.「見る/見られる(覗く/覗かれる)」+「匿名/実在」

箱男は、段ボール(箱男にとっての住居)を頭から被り生活する男です。私は浮浪者と同じものだと思っていますが、作内では明確に箱男が「箱男は浮浪者とは違う!」と主張しているので、ならば心意気を含めて結構違うのでしょう。同じだと思うけど。

箱男は、覗き穴を開けて「世界を覗いて」います。その時、外からは穴を直接覗き込まなければ、箱男の目以外、中は見えないでしょう。要するに、完璧な匿名性が約束されながら、箱男は世界を覗き続けることができるのです。

…と、箱男が思っているだけで、実は周りからすれば「何やってんだアイツ」という感じで、箱男の滑稽さと異様さはモロバレである。というところまでをセットとして考えると、この作品を少し楽しめると思います。

それでも、誰にもバレずに覗きをする背徳感と快感については散々主張され、読んでいる方も一度は箱男になってみたい…と感じてしまうでしょう。

事実、『箱男』には「贋箱男」なる人物が登場します。彼が箱をかぶるきっかけも、この世界から切り離された匿名性の檻への好奇心から。そして自ら囚われるうちに、「箱」の魅力に取り憑かれ、徐々に「本物の箱男」になっていきそうになる。そんな危険な「箱」をめぐる作品です。

 

2.浮遊する“主人公”という存在

『箱男』を読み解く上での難所の一つは、「主人公」が誰なのかがよくわからないという所。

『箱男』自体、元々箱男が箱の中でノートに書いた手記(遺書)という形式で綴られた作品。だから普通に考えれば主人公は「箱男」のはずなのですが、作品の中で「書き手」が頻繁に変わります。そのため、主観が客観になったり、時には時空を超えた話が挿入されたり、中には嘘も含まれていたりと意図的にカオスな構成になっています。

箱が全然関係ないパートもあるのですが、個人的な読み方としては、主人公は不在。箱の中の「ノート」を起点として、「箱男的意志」を持った人が入れ替わり立ち替わり本書を書いている。強いて言えば、『箱男』の主人公は「箱男的意志を持った人物(複数)」という感じです。こう考えると、ぐっと読みやすくなると思います。

『箱男』における「箱」=「匿名性」ということだと解釈しているので、その中に入った人物は誰であろうと、「箱男」という概念になる。だから、元カメラマンの箱男も、贋箱男も、徐々に似たような思考パターンに陥っていくのです。

 

3.すべては箱男の壮大な「言い訳」

匿名性が保たれる?主役が入れ替わる?そうは言っても、覗き行為はゲスなこと。許されることではありません。それを生きがいにしている箱男は、筋金入りのクズ人間です。

そのクズ人間が、読み手をも巻き込みながら覗く行為や自己を正当化する、壮大な言い訳。

本書のことを「遺書」だとか、「安全装置」だとかカッコつけていますが、『箱男』の真意は結局そんなことなのです。ただの難解な言い訳。

なぜ言い訳と断言するかというと、「言い訳」って、言いながらドンドンおかしな方向に進むことがあるように、『箱男』の本文もそんな大きな波に揺られながら進んでいくからです。最後は自分の吐いた言葉に取り囲まれて不利になっていき、逆ギレして開き直る。そんな流れにも似ているな…と感じました。

 

 

安部公房『箱男』の目次とあらすじ

要点と名言をいれつつ、目次とあらすじをまとめました。本編は「書いているぼくと 書かれているぼくとの不機嫌な関係をめぐって」で一旦終わっていると思われます。そこからの続きが、安部公房氏の悪意の重層構造になっています。

ただいたずらに難解になるだけでなく、「Dの場合」「夢の中では箱男も箱を脱いでしまっている。箱暮らしを始める前の夢をみているのだろうか、それとも、箱を出た後の生活を夢見ているのだろうか…」の様に印象深い挿話もあり、それぞれ色々感じさせる内容になっています。

上野の浮浪者一掃 けさ取り締り 百八十人逮捕

大量の浮浪者を取り締まった新聞記事。もうやらないと誓約書を書いた一時間後には元の場所へ戻っていた

僕の場合

これは箱男についての記録だ。箱の中で書き始めている。「僕=元カメラマン」の箱男

箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけている

箱の製法

箱男の箱の材料はダンボールの空き箱。それに生活用品を組み合わせて作っていく。

こだわりは「匿名性」「防水性」「耐水性」「通気性」「軽さ」「静電気が発生しない」「覗き窓の位置」「覗き窓にかける艶消しビニール幕(誰からも覗かれず、こちらから向こうが覗ける)

たとえばAの場合

Aが箱男になった動機について。

全国各地に箱男はかなりの数いて、みんな見て見ぬ振りをしている。Aのアパートの窓のすぐ下に箱男が住みついた。嫌悪と苛立ち。警察に言っても相手にされない。空気銃で箱男を撃つ。立ち去る箱男。

半月後、Aは冷蔵庫を買った。

1日目。箱に入ってみる
2日目。覗き窓をつけてみる
3日目。落ち着く
4日目。箱をかぶったままテレビを見た
5日目。部屋ではほとんど箱で過ごす
6日目。日用品を仕込み箱に籠城、部屋として整えて手淫して初めて寝る
7日目。箱のまま外に出て、そのまま戻ってこなかった

Aの落ち度は、他人よりちょっぴり箱男を意識しすぎたくらいのことだろう。

箱男に銃を向けたりしてはいけない

 

安全装置を とりあえず

元カメラマンの箱男が、運河をまたぐ県道三号線の橋の下で雨宿りしながらノートを書いている。

箱が五万円で売れたので「買い手=女」を二時間以上待っている。

こんな場所での取引に、危険を感じている箱男。安全装置に、このノートを証拠物件として残す。どんな死に方をしても、ぼくには自殺の意志は少しもない。絶対に他殺だ。

箱男は浮浪者とは違う。

ただ、どういうわけか、落伍者意識だけにはまったく縁がない。箱を疚しく感じたことさえ一度もない。箱はぼくにとって、やっとたどり着いた袋小路どころか、別の世界への出口……とは言ってみたものの、小さな覗き窓から外の気配を伺いながら、ただ吐き気をこらえているのでは、袋小路もそう変わりはない。大口を叩くのはよそうここではっきりさせておくべきことは、要するに、まだ死ぬ気はないということなのである。

彼女が顔を見せない。代理人が来るのか?

ノートを袋に入れてトラップを貼っておけば、自分が死んだ後に犯人を暴いてくれるのか?

鉛筆の芯がちびてちまった。いい加減にしてくれよ。いったい彼女は、来るつもりなのだろうか、それとも来ないつもりなのだろうか。

 

表紙裏に貼付した証拠写真についての二、三の補足

約1週間ないしは十日ほど前のある夕刻、醤油工場の長い黒塀の山寄りの端の写真について。

箱男になる前、「ぼく」はカメラマンだった。

●狙撃者の正体についての最初の推測

空気銃で肩を撃たれる。これまでに彼らしい男から何度か接近されたことがある。

●だが新しい登場人物によって、推測は一転した

自転車でやってきた人物は女だった。「坂の上に病院があるわ」

千円札が三枚、箱に投げ込まれる

空気銃男が医者で、自転車の娘が看護婦、という罠かもしれない。化膿して病院へ。

注射器をもった自転車娘と、メスをつかんだ空気銃男がそこにはいた。そこで、不本意ながら五万円で箱を買い受けるという約束をしてしまっていたのだった。

※欄外の付記

女とカメラマンの会話。

カメラマンの友達が写真をとると不意に箱男が写っていた。探したけど見つからず、箱に入って偽箱男になった。そのまま、箱男になってしまった…という話

私、あの箱がほしいの。

 

行き倒れ 十万人の黙殺

浮浪者の死。半日くらいだれも気に留めず。

それから何度かぼくは居眠りをした

貝殻草の話。
貝殻草のにおいを嗅ぐと、魚になった夢をみる。夢を見るより夢から覚めることが問題。地上の数秒が数日間にも数週間にも引き伸ばされるので、最初は魚になって楽しいがすぐに飽きる。夢から覚めたくて苦悩し、魚は打ち上げられて死ぬ。でも目覚めたわけではないので、贋魚のまま死ぬ。という話。

嵐の後、海辺に打ち上げられた魚たちのなかには、だから、貝殻草の花にむせながら睡りについた、運の悪い連中がすくなからず混っているはずだという。

でも、ぼくはまだ魚になっていない。何度か居眠りしたが、箱男のまま。

贋魚も箱男も、そう際立った違いはなさそうだ?

贋物であることに免疫になってしまったぼくには、もう魚の夢をみる資格さえないのかもしれない。箱男は、何度繰返して夢から覚めても、けっきょく箱男のままでいるしかないらしいのだ。

 

約束は履行され、箱の代金五万円といっしょに、一通の手紙が橋の上から投げ落とされた。つい五分ほど前のことである。その手紙をここに貼付しておく

あなたを信頼します。領収書はいりません。箱の始末も一任します。潮が引ききる前に、箱を引き裂いて、海に流してしまって下さい。

 

……………………

本当は医者が来ると思っていたのに女が来たことにうろたえる箱男。

すでに箱の所有権は女に渡っている。彼女の要求は「箱」の始末だ。彼女の意思を尊重するなら約束通り始末するべき。だが、そんなことをして何の得がある?腑に落ちない。五万円をつっかえそうか…?

医者が箱を欲しがっているが渡さないように始末しようとしているのかもしれない。とにかく、彼女の真意を聞きたい。

箱男にとっての箱の意味を軽く考えすぎている。五万円は安い。

強がりなんか言っているわけじゃない。ただの強がりだけで、三年ものあいだ箱生活を続けたり出来るものか。甲殻類のヤドカリだって、いちど貝殻生活をはじめると、胴から後ろが軟化してしまうので、無理に引出されると千切れて死んでしまうということだ。

もっとも、箱男という人間の蛹から、どんな生き物が這い出してくるのやら、ぼくにだってさっぱり分からない。

 

鏡の中から

病院に向かう箱男。鏡を使って彼女の部屋を覗くと、裸の女が部屋にいて、箱男に話しかけていた。ぼくと全く同じ箱男に…中身は医者だろう。

(ふと思った。何処かで、これとそっくりな光景を見た憶えがある。)

五万円の返却だけが目的ではなかった?内心どこかでこんな場面の実現を密かに願っていたはず。「裸の彼女を覗くこと」。彼女の裸をさらに脱がせて、裸以上の裸が見えてくるまで除き続けること・・・

  • 覗くことへのこだわり
  • しじゅう覗き屋でいつづけるために箱男になったような気もする
  • あらゆる場所を覗いて回りたいが、かといって世間を穴だらけにするわけにもいかず、そこで思いついた携帯用の穴が箱だったのかもしれない。
  • 逃げたがっているような気もするし、追いかけたがっているような気もする。

女の身の上話。見習い看護婦になるまでは、貧しい画学生。個人経営の画塾や、アマチュアの画家クラブや、モデルで生計をたてる。この病院で妊娠中絶の手術をうけ、三ヶ月無料で入院。看護婦がやめて代わりになんとなく居付いた。

鏡の世界は妄想の実現だ。裸の彼女。眼球は火照り、勃起してしまう。

ただし、条件付きの裸。贋物に覗かれている裸。満足どころか嫉妬する箱男。

蜃気楼だと分っていても、喉が渇けば幻の水に向って走らずにはいられないのだ。

見ている間だけしか存在してくれないから、見たいと思う欲望も切実になる。

贋箱男と会話する女。贋箱男のビールを飲む女。四つん這いで後ろを向く女。箱男に近づいた犬を追い払っている間に、服を着ている女。贋箱男に犯されなかったことに安堵したが、深く傷つく箱男。

五万円を受け取った時から、所有権がうつった?

帰ろうとするけど、何かを期待して動けない箱男。

 

別紙による三ページ半の挿入文

紙が違う、初めて万年筆、字体も違う。

女と医者の会話。女が箱男にさっきの一連の行為をした時の報告。

既にこのタイミングで、入れ替わりが起きている?

 

書いているぼくと 書かれているぼくとの不機嫌な関係をめぐって

海水浴場にいる箱男。箱の処分をする決意。8時きっかりにもう一度病院を訪れる。

女に対して、ラジオの話を聞かせようとする。ニュース中毒になった箱男。ニュース中毒から突然恢復したきっかけは、道行く中年の突然死。

贋男から、五万円は箱男に渡すために預けたのに、なんでお前がもっていると言われる。

俺は箱男だ、と答える男。

箱も悪くないね、と贋箱男。箱男になりたがるのも無理もない

箱の間から見る贋箱男がぼくをみている。

見られているのもぼくだが、見ているのも同じくぼくなのだ。

贋箱男の提案
・この家で自由にふるまって良い
・ただ、贋箱男に覗く自由を与えてほしい

箱男なんて、気にしなければ、風やほこりみたいなものだよ。

見えてもいないのに、見たような気がするのが幽霊なら、ちょうど正反対の存在だな

箱男は万引きしても無視される無害な存在

一言、裸になってくれ、と言えるのだろうか

自分の醜さ、人前で裸になることの厚かましさ。服を着ることの意味…

「覗き」という行為が、一般に侮りの眼をもって見られるのも、自分が覗かれる側にまわりたくないからだろう。やむを得ず覗かせる場合には、それに見合った代償を要求するのが常識だ。

誰だって、見られるよりは、見たいのだ。

決めきれない箱男。
覗くことには馴れっこだけど、覗かれることにはまだ馴れていない。

贋箱男が女の「名前」を呼び、裸になるように指示する。脱ぎ始める女。女に見られてもほとんど見られた気がしない。

箱男が専門の覗き屋なら、彼女は天性の覗かれ屋なのである

写真、撮りたければ、撮ってもいいのよ。

いまここでカメラを構えてしまうとら贋箱男との共同生活を、暗黙のうちに認めてしまうことになるわけだ

脱ぎ続ける女。

こちらは撮影なんかより、もっと直接的行動の方をお望みなんじゃないかな。

境界線を越えるのが怖い…

「箱は始末してきた」「ならこのノートは何処で誰が書いているんだい?」

女、贋箱男を含めてその診察室自体がぼくの箱の落書きだろう

1時間34分の間に59ページ書くなんて不可能だ。誰か他の人間が別の場所で書いているのかもしれない。贋箱男が?なんのために?箱男を告発するために、その実在を印象付けようとしている?箱男の無実を証明するために、実在していないことを印象づけようとしている?

空気銃で打ったのは誰だ?打たれた時、写真を撮ったよ。似た風貌、うつっている坂道がすぐこの下の醤油工場の並びだ…

突然動く贋箱男。
空気銃に狙われる箱男。
そのフィルムを出せ!
女に「身体検査しろ」と言う贋箱男。
女の白衣の前があく、その下は裸だった。

箱男はずたぶくろからワニのぬいぐるみを出す。砂が詰めてある武器だ。

贋箱男を殴りつける!

と、こうしてノートを書いているのがぼくでないとしたら…

ぼくが生きのびているという証拠はどこにもない

 

供述書

これからいうことはすべて真実です。T海岸公園に打ち上げられた変死体について話します。

供述書を書いている男の名前は「C」。
この名前は、戦時中衛生兵として従軍していた時の上官の軍医の名前を、本人の了解のもとに利用していた。

昨年まで内縁の妻《奈奈》を看護婦としていた。《奈奈》は上官の正妻だが、了解を得ていた。

昨年看護婦見習いで入った《戸山葉子》に不満で別居した。

※贋箱男がCで、戸山葉子が、女。

 

Cの場合

Cを軍医?の俯瞰視点で見て書いたような文章。

書きかけの供述書。まだ何も起きていない、起きるかどうかもわからない事件についての供述書。

そして取り出したノート(箱男のと同じ)

Aのノートと同じ出だし

明後日のことを既に過去の事件として書き始める?

三十時間前に死んだ箱男の話

もしかすると、君は、箱に深入りしすぎたんじゃないかな。手段にすぎなかった箱に、中毒しかけているのかもしれない。

供述書を破り捨てて欲しいA

 

続・供述書

変死体は軍医に違いない。「軍医殿」はニックネーム。軍医は材木から糖分をつくる研究中倒れ、麻薬常習者になっていた。

Cが診療所を開設した理由

  1. 麻薬の補給を続けなければならない。医者の麻薬中毒の治療は絶望的に困難
  2. Cの生計が確保できた
  3. やってるうちに評判もでてきたから

軍医の症状がひどくなって移転。奈奈の発案で、軍医とCが入れ替わる。

軍医が病院を抜け出して死んだ理由は不明だが、最後はひどい状態だった。自分が何者かもわからない。箱男になった。自殺癖。麻薬の量を増やせとCに命じる。戸山葉子の裸を見せろ、戸山葉子に浣腸してもらいたいなど言い始めていた。

死刑執行人に罪はない

軍医がCに遺体安置室で、解体されるのを客観的に記述する文章。この時点で書き手はもはやわからなくなっている。

ぼくが遺体安置室にいるのは、頼み込んだからだ。ぼくはまだ死んでいない。今から殺されるから、遺書を書いておく。

腐っていく自分の実況中継。解剖、解体される自分の実況中継

そして死ぬ、ぼく。かつぐ男。死体を隠す場所は醤油工場の裏か?

 

ここに再び そして最後の挿入文

このノートの真の筆者が誰で、目的はなにかを正確に知らせるための文章。これまで書いてきたことに嘘はまったくない(と書いてある)

安楽死とはなにか?

  1. 病人が不治の病におかされ、死が目前に迫っていること
  2. 苦痛が誰の目にも見るにしのびないものであること
  3. 病人の苦しみの排除が目的であること
  4. 病人の意識が明白であり、本人の嘱託または承諾のあること
  5. 医師の手によること。もしくは、うなずける充分な理由のあること
  6. 死なせる方法が倫理的に妥当であること

ぼくの意見は、法律の届かない場所に住む人間が相手なら、いずれすべての殺人が安楽死だ

だから、誰が本当の箱男であったかをたずねるよりも、むしろ誰が箱男でなかったを突き止めるほうが、ずっと手っ取り早い真相への接近法だ。

そこで、考えてみてほしいのだ。いったい誰が、箱男ではなかったのか。誰が、箱男になりそこなったのか。

 

Dの場合

少年D
自作の覗き筒(アングルスコープ)で、隣家の中学の体操女教師のトイレを覗こうとするが未遂に終わり、女教師に見つかり、裸になるように命令される

鍵穴から覗き一言も発しない女教師。
裸になり、勃起し、射精する少年D

これで、分ったわね?

薄めに奥のドアが開いて、飛んできた玄関の鍵が音もなく床に落ちた。内側からなら、鍵がなくても開けられるはずのドアだった。

 

……………………

病院にたどり着いた箱男。贋箱男だと思って話しかける女。

「本物の方ですよ」と言う男。

箱を1秒でも見ていたくないから脱いでくれとせがむ女

裸になる女。
裸になる男。

男は、実は贋箱男だった。

でも、このノートは本物なんだよ。本物の箱男からあずかった遺書なのさ。

※ただ、遺書だからといってすべてが真実とは限らない

 

夢の中では箱男も箱を脱いでしまっている。箱暮らしを始める前の夢をみているのだろうか、それとも、箱を出た後の生活を夢見ているのだろうか…

結婚するときには馬車で花嫁を迎える習慣のある街の話。

馬の代わりに箱に入った60過ぎの父が引く。

花嫁の家間近で立ち小便をしたのを花嫁に見られてフラれた

引き下がり、都会へでる父子。父は子をショパンとよぶ。

ショパンは絵を書き、その代金を父の箱の穴に入れる。

儲かって父の箱はダンボールから尾錠つきの赤い本皮製に変わった。

世界で最初の切手の発明者はショパン

ただ、郵便技術が進むに連れ、切手の贋造者として知られるようになった。

ただ、父が最後に愛用していた赤い箱の色だけは、いまでも一部、郵便ポストの色として受け継がれているようである

 

開幕五分前

いま、君との間に、熱風が吹いている。終末の予感。

男と女の会話

聞いている以上、君も作中人物の一人になる義務がある。

この熱風の苦痛の中で、ぼくは死にいたるまで消えない、肉の変形術をほどこされるのだ……

 

そして開幕のベルも聞かずに劇は終った

女が去る。扉に釘をうち、出口をなくす箱男

ぼくは失敗したかもしれないが、間違っていなかった

やり直したとしても、同じことの繰り返しになる

 

……………………

本当は、彼女の部屋のドアを閉める音を聞いたのだった

箱は余白が多いほうが良い。

手掛かりが多ければ、真相もその手掛かりの数だけ存在して良いわけだ。

 

最後に

いかがだったでしょうか。歪んだ欲望が卑屈な箱男を生んだ安部公房氏の問題作。なんべん読んでも気持ち悪く、でも引き込まれる作品です。

『箱男』

(新潮社)
発売日:1973/3
ページ数:248ページ

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安部公房『箱男』の読了時ツイート