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辻村深月『凍りのくじら』感想・登場ひみつ道具で振り返る|全大人が子どもに戻る「心の迷宮」冒険記

41冊目『凍りのくじら』辻村深月(おすすめ本7冊目)

人間の「心」を冒険する。永遠のドラえもん世代が共感する物語。

twitterでゆかこ堂書店(@yukakodo_shoten)さんにお薦めいただきました。ありがとうございました!そして見渡せば、本作のファンの方は大勢いらっしゃいますね。歳を取れば取るほど味わい深く、心に残る作品です。

『凍りのくじら』辻村深月
(講談社)
発売日:2008/11/14

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講談社
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『凍りのくじら』はこんな人におすすめ

  • ドラえもんが好き、いやむしろドラえもんの登場人物になりたい
  • 青春ものが好き
  • 悩める主人公が好き
  • ドラえもんを見たことがある親の世代
  • 辻村深月作品をどれから読もうか迷っている人

実は、女優の芦田愛菜さんは超読書家で、なかでも辻村深月先生の作品が大好きなのだそうです。

芦田愛菜さんがおすすめ本を語りまくる『まなの本棚』では、辻村深月作品をどれから読もうか迷っているなら、『凍りのくじら』をおすすめします!と明言しています。私も賛成です!

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『凍りのくじら』の感想

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき―。

実は辻村深月氏の著作は初めてでした。

ドラえもんとのび太の活躍を、ブラウン管の前に齧り付く様にして観ていたのはいつの日だっただろう。

のび太の夢と希望を叶えるため、状況に応じたひみつ道具を提示する猫型ロボットドラえもん。適切に使えば効果を発揮するそれも、使う人次第でうまく行かなかったり、むしろ逆の効果も生んでしまう。そんなもどかしさにハラハラドキドキしながら、感情移入してのび太を応援したあの日々。そこには子ども時代だからとバカにできないほどの人間ドラマがありました。

時は流れ、本書の主役である芦沢理帆子は女子高生。空気に合わせた会話がうまい自分のことを俯瞰して「Sukoshi・Fuzai(少し・不在)」と自嘲する。そんな彼女が、徐々に迷い込む「人間の心理」という迷宮。そこから抜け出すことはできるのか?

物語を彩り、密接に絡みあうドラえもんのひみつ道具たち。どうみても先は袋小路なのに、堕ちる運命なのに。知りつつもそちらの道を進んでしまう理帆子。それをもどかしく見守る読者との構図はまさにドラえもん。

そして闇の底に差す一条の光。心を旅するSukoshi・Fushigi(少し・フシギ)な青春の物語。

冒険心の炎が灯った事がある、すべての大人にオススメです。

私は、再読時に涙が止まらなくなりました。特に写真集が完成したくだりは、親の年齢になると、もはやどうしようもないわこれ…

 

『凍りのくじら』に登場するドラえもんのひみつ道具一覧

本文で触れられているドラえもんのひみつ道具の一覧です。道具の説明は、本書もしくは公式サイトのドラえもんひみつ道具一覧より引用しています。

『凍りのくじら』の世界観は、ドラえもんのひみつ道具に彩られています。自分が幼かった頃の思い出と、物語内で登場する道具の使われ方は結構違うと思います。理帆子の性格上、少しネガティブなイメージ。そんなところも注目して読んでみると、面白いかもしれません。

注意
以下、微妙にネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。派手なネタバレではないです。

どこでもドア

行き先を告げると(作品『ドラえもん』の中では言わないことも多いが)、ドアの向こうが行き先に繋がり、ドアをくぐれば目的地に行くことができる。

『凍りのくじら』内では、主人公の芦沢理帆子が「どこでもドアを持つ私は、屈託なくどこのグループの輪にも溶け込める。」と言う表現で登場。でも、場の当事者になることがなく、どこにいてもそこを自分の居場所だと思えない。息苦しい。とも言っている。

そんな自分を「Sukoshi・Fuzai(少し不在)」と自嘲します。

カワイソメダル

これをつけた動物を見ると、誰でもかわいそうでたまらなくなる。

『凍りのくじら』内では、理帆子の元カレであり作品内でも重要な位置にいるトラブルメーカー、若尾大紀はカワイソメダルを持っていて、みんなが普通であれば許されないことも許してしまう。生まれつき皆に甘やかされてきた、許されてきたと理帆子は指摘する。

このカワイソメダルが原因で、物語は困った方向に進んでいきます。

入りこみ鏡

“鏡の中の世界”に自由に入ることができる道具。鏡の中の世界は、左右があべこべで、人間はいない。

最重要キーパーソンである別所あきらとの会話で、ドラえもんのひみつ道具で何が欲しい?と聞かれた理帆子が答えた3つのうち一つ。

逆世界入りこみオイル

これを鏡のように反射(はんしゃ)する平らな面にぬると、そこから鏡の中の世界に入ることができる。

おなじく別所との会話で、理帆子がほしいと答えたひみつ道具の2つ目。

おざしきつりぼり

海や川を4次元スクリーンにうつしだす道具。シートを広げるだけで、部屋の中にいながら、つりを楽しむことができる。

おなじく別所との会話で、理帆子がほしいと答えたひみつ道具の3つ目。

入りこみ鏡、逆世界入り込みオイル、おざしきつりぼり。この3つの共通点は「そのもう一つの世界には、誰もいない」ということ。過去のことを思い出し、理帆子はそこで生きたい、と考えているからだ。

フエルミラー

増やしたいものをこのカガミにうつすと、本物になって出てくる。

理帆子の父が、フエルミラーでのび太はお札を増やそうとするけど文字が反転して出てくるので失敗するけど、反転してでてきたお金をもう一度鏡に映せば無限に増やせるのにな、と言っていたと言うエピソードで登場。のび太の思考の一段上を行って喜ぶ父のことを懐かしみます。

悪魔のパスポート

これさえ見せれば、どんなに悪いことをしてもゆるされてしまう、おそろしいパスポート。

ドラえもんでは、のび太がこの道具でやりたい放題やるけど、最後は「きみが悪者になろうなんて思うのが無理なんだよ」と諭されて終わる。理帆子は、若尾には悪魔のパスポートは使いこなせないと指摘する。自分から悪者になろうとするのではなく、メダルを持っていて特別扱いされているだけだと。

ニクメナイン

飲むととても感じのいい人間に意識されて周りの人から好かれるようになる薬。

若尾が持っているカワイソメダルの代わりの候補として挙げられた道具。でもこれもちょっと違うと理帆子は指摘する。カワイソメダルは、見た相手が『可哀想』『守ってあげなくては』って気持ちになるところがポイントだそう。

もしもボックス

電話ボックスの中の受話器を取り、「もしもこんな世界があったら」と話す。外に出ると、その通りの世界になっている。

『凍りのくじら』の第三章のタイトル。理帆子の父が失踪する時のことを思い出し、もしもあの時、私が父を止めていたら?と後悔する。そして、もしも私がいない世界になれば、何か変わるのだろうか?とネガティブな想像をする。

ビッグライト

このライトを浴びると、どんなものでも大きくなる。

父の部屋を訪れた理帆子が、転がっていた懐中電灯を見て思い出した幼少の記憶に登場。

スモールライト

このライトを浴びると、どんなものでも大きくなる。

父の部屋を訪れた理帆子が、転がっていた懐中電灯を見て思い出した幼少の記憶に登場。

タイムマシン

過去や未来に自由に行くことができる乗りもの。のび太のつくえの引きだしの中にある。

別所が「僕にはやり直したいことがたくさんある」として、理帆子との会話に登場したひみつ道具。

タケコプター

からだに取りつけると、自由に空を飛びまわることができる。

別所が「オーソドックスだけど、空が飛んでみたい」と理帆子との会話に登場した。

いやなことヒューズ

これを襟首につけておけば、ひどく嫌な時ヒューズが切れたようになって何も感じなくなる。しばらくすれば復活するが、息も脈も止まって気絶した状態になる。

第4章のタイトル。若尾とのデートで理帆子が感じた、若尾の欠点。若尾は嫌なことがあると、ヒューズを飛ばしてプツンと逃げる。そしていやなことの閾値がどんどん低いレベルに下がっていく。このことを象徴したひみつ道具。

すて犬だんご

食べると二度と家に帰ってこられなくなるだんご。いらなくなったペットを捨てる際に食べさせる。ドラえもんの中では誤って食べてしまったのび太が、どんどん知らない場所に迷い込むという怖い話。

郁也を追って迷子になりかけた時、理帆子はこの道具のことを思い出し、少し不安になった。

舐めると酸素が供給されるあめ

おそらく「水中酸素あめ」のこと。なめると水から酸素を取り出して、水中でも呼吸ができるようになる。

『のび太の海底鬼岩城』の話をする理帆子が、泳げないのび太のために出されたひみつ道具の例として話題に出す。実際に水中酸素あめが登場する映画は『のび太と竜の騎士』。(そんな発明もあります、と言って説明)

浴びるだけでどんな場所にも対応できるライト

おそらく「テキオー灯」のこと。この光を浴びると、どんな環境にも対応できる。

『のび太の海底鬼岩城』の話をする理帆子が、泳げないのび太のために出されたひみつ道具の例として話題に出す。『凍りのくじら』の中でも重要な役割を持つ。

塗ると水圧に耐えられるようになるクリーム

おそらく「深海クリーム」のこと。これを全身に塗ると、どんな深い海の水圧にも、冷たい水温にもたえられるようになる。

『のび太の海底鬼岩城』の話をする理帆子が、泳げないのび太のために出されたひみつ道具の例として話題に出す。実際に深海クリームが登場するのはコミック4巻の第5話「海底ハイキング」に登場す

先取り約束機

これに約束すれば、その結果を先取りすることができる。約束したことは後で必ず実行しなければならない。

第5章のタイトル。理帆子は、若尾は「いつか、必ず」と先取り約束を取り付けて、そこで得た結果を先に振り回してきた。人を馬鹿にして、軽蔑して、何もかも許されてきた。しかし、ツケが回る瞬間になって彼は初めて自分が使っていた道具が『先取り約束機』だと気づいたのだ、と告白する。

どくさいスイッチ

このスイッチを押すだけで、ジャマな人物をカンタンに消すことができる。独裁者(どくさいしゃ)をこらしめるための道具。

どくさいスイッチも、悪魔のパスポートも、のび太を信じた上で成り立っている道具。理帆子は、若尾にはどくさいスイッチは使いこなせないだろうと嘆く。そして、第9章のタイトルでもあり、これが悲劇のスイッチになる。

ムードもりあげ楽団

一人の人間について行き、その人物の遭遇する状況やそこでの感情の動きに合わせて音楽を演奏して気持ちを盛り上げてくれる。

第6章のタイトル。郁也と観たアニメドラえもんで登場した道具。同時に、言葉を発することのできない郁也のピアノの卓越した技術に、感情を感じて…というダブルミーニングでもある。

オールマイティーパス

この券を持っていると、どんなところにも自由に入ることができ、どんな乗りものにもタダで乗ることができる。

理帆子は、自分が持っている道具はどこでもドアだと思っていたが、実はオールマイティーパスだったのだと気づく。オールマイティーパスを持っているとどこにでも入っていけるが、これには有効期限があり、効力を失った瞬間、それまで親しく迎え入れてくれていた人たちが一斉に掌を返した様に冷たくなる。

ツーカー錠

二色に分かれたカプセル錠。この薬を分け合った二人の間では、どんな会話もツーカーで通じる。ただし、心に思ったことがすっかり通じてしまうため、嘘がつけなくなる。

第7章のタイトル。本来は心を通じ合わせるための道具ですが、『凍りのくじら』では、かつてツーカーの仲であった理帆子と若尾の関係が破壊されて、狂ったようにメールと電話、手紙を送る若尾のストーカー的行動が皮肉です。そして読者をぞっとさせます。

タイムカプセル

なんでも新しいままで保存できるカプセル。たとえばアイスクリームだって一万年しまっておける。

第8章のタイトル。理帆子の母、汐子が作り上げた最後の写真集。これがまさにタイムカプセルそのものです。私はこのシーンで涙が止まらなくなりました。

四次元ポケット

ドラえもんのおなかについているポケットと同じもの。中が四次元になっていて、何でも入る。ドラえもんは、数々の秘密道具をここにしまって、出し入れする。

第10章のタイトル。ドラえもんといえばひみつ道具。そのひみつ道具を繰り出す四次元ポケットは、ドラえもんのアイデンティティ。別所との最後の会話で明らかになる真実。すべての伏線が光とともに回収されるラストは、とても美しいです。

きせかえカメラ

気に入ったファッションのデザイン画や写真をこのカメラに入れ、着せたい人に合わせてシャッターを押すと、すぐに着せかえることができる。

エピローグに登場。写真誌『アクティング・エリア』で、理帆子の写真が入賞したら何が欲しい?と言われて答えた道具。過去の理帆子が欲しがっていたひみつ道具は、ネガティブな動機が理由の根底にありましたが、ラストの理帆子は明るく、とてもキラキラした女の子になった。そんな印象を受けました。

 

いかがでしょうか。誰もがこどもに戻れる少し・不思議な物語。

ぜひ読んでみてください!

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辻村深月『凍りのくじら』の目次

プロローグ
第1章 どこでもドア
第2章 カワイソメダル
第3章 もしもボックス
第4章 いやなことヒューズ
第5章 先取り約束機
第6章 ムードもりあげ楽団
第7章 ツーカー錠
第8章 タイムカプセル
第9章 どくさいスイッチ
第10章 四次元ポケット

エピローグ

主な参考資料

解説 瀬名秀明

 

辻村深月『凍りのくじら』の読了時ツイート

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