文学・小説

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』あらすじと解説|芥川賞受賞作。コミュニケーションの不可解さ。人間はわかりあえない。

33冊目『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介

「早う死にたか」

若さと未来への希望あふれる青年「健斗」が、老化とともに生きる希望をなくしたと繰り返す「祖父」とのやり取りを経て起こる心境の変化を描いた物語。

第153回芥川賞受賞作品です。

現代の人々の生活感を淡々と描きながら進むストーリーには、閉塞感もありつつどこかに余白が残るリアルな空気を感じさせてくれます。

『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介
単行本: 121ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/8/7)

主な登場人物

健斗
カーディーラーを7ヶ月前に辞め、現在無職。祖父と母と3人暮らし。

祖父
自称退役軍人。老化による体の不調を、家族に訴え続けるのが日常。


祖父の介護を続けるも、祖父には辛く当たる。

亜美
アウトレットモール内のDCブランドショップ店員

大輔
介護職で働く友人。介護業界の現状を伝えつつ、健斗に「足し算の介護」をアドバイスする。

『スクラップ・アンド・ビルド』のあらすじ

求職中の健斗は、実家で祖父と母親と三人暮らし。

祖父はいつも家にいて、老化による体の不調を訴え、日常の作業の手伝いを要求する。そして、母親に冷たくあしらわれるのが日常。

ただ、母親は祖父に寝たきりになられては困るから(それと、介護に疲れ嫌気がさしているから)というのが厳しくしている理由どろう。

健斗は日々「死にたい」と言う祖父の言葉を真剣に捉えて考える。

「本当に辛くて死にたい」からこそ、祖父は死にたいと言っているのに、その言葉を流して対応するのは、祖父のメッセージを無視していることになるのではないか?

苦しまず、殺人にならず死ねるような、「究極の自発的尊厳死」を祖父は求めているのではないか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

介護職の友人、大輔から「使わない機能は衰える。だから老人の自発的な行動を積極的に奪う事で、死に追いやる事は可能だ」とアドバイスを受ける。

「足し算の介護」だ。

健斗はこれを遂行するため、祖父の行動を徹底的に奪おうと決意する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、健斗は筋トレにハマる。筋肉を痛めつけ、超回復させることで肉体をアップデートしていく快感。

四つ下の彼女、亜美とのセックスを繰り返し、日々強くなり、漲っていく自分に自信を得ていく。

健斗は機能を使い、向上させる。
祖父は機能を使わず、減衰させる。

また、これからまだまだ体を作ることができる自分を感じるたび、衰えゆく祖父に対して優越感を抱いてゆく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

純粋に健斗は自分の意思に従って行動を続けようとするが、暖簾に腕押しの様な感覚を味わう。さらに祖父が時折見せる「生」への執着の様なものに、理解しがたいものを感じる。

「祖父は本当に、純粋に死のうとしているのか?」

祖父の緊急入院、親戚の中での挙動、風呂での溺れかけ事件を経て、健斗は結論を出す。

「祖父は、生にしがみつこうとしている」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

就職が決まり、引っ越しの朝を迎える。

しばらくは実家に戻らないだろうが、数年経ったって、祖父が死んでしまっているイメージはできなかった。

これからは自分の側に「自分より弱い肉体」が無くなることに一抹の不安を抱きつつも、健斗は旅立つ。

 

コミュニケーション、相互理解の難しさ

健斗は、祖父が繰り返す「死にたい」と言う直接的な言葉を信じて、それに応じて尊厳死へと誘おうとする。しかし、本当にそれで良いのだろうか?

言葉は時として、裏の意味を待つ。

「好き」が「嫌い」に。
「痛い」が「気持ちいい」に。
「死にたい」が「生きたい」に。

長年連れ添った夫婦でさえ、言葉の真意を掴むことは容易では無い。いわんや自分の本音すらあやふやになっている老人をや、だ。

健斗は自分の直感を信じて行動するが、次第にそれもぐらついてゆく。

そして、人の気持ちは常に変わるもの。どこか一つのタイミングの真実は、明日の真実では無いかもしれない。

健斗はその複雑怪奇な人間心理に戦慄する。

就職先でも、健斗は数々の「人の心」と言うアメーバ状の化物と対峙することになるのだろう。

…ところで読者は、祖父の本当の気持ちを理解できたと言えるだろうか

 

亜美との関係、結末はどうなったのか?

最後までしっかり描かれず、「亜美とのセックスライフはどうなったんだ!」と悶々とする諸兄もいることでしょう。

私の見解を言いますね。

最後の電話のシーンの後、ほどなくして音信不通になったか、正式にフラれたと見るのが正解でしょう。

健斗はしばしば亜美に対して

「自分がパワーバランス的に上」
「亜美はちょいブス」
「亜美のぽっちゃり体型はイケる方だが、ぽっちゃりな身体を作ってしまう豚のようなメンタリティーは心底嫌い」

などと上から目線で思っている描写が多く登場します。直接亜美にキツイことを言って場を凍らせるシーンもいくつもある。

最初は健斗の思う通り、パワーバランスは健斗の方が上だったでしょう。しかし、度重なる健斗の奢りに嫌気がさした亜美の方からフラれたのです。

こと恋愛においては、女性の方が心理的な駆け引きは上手なもの。残念な結果です。

しかし健斗もなかなかの強メンタルの持ち主なので、フラれたことに対してはさほどダメージはないかもしれませんね。

最後に

いかがだったでしょうか。さすがは芥川賞受賞というだけあって、独特な純文学の中に著者の挑戦的な思想やブラックユーモアが紛れ込まされた、意欲的な作品です。

今風の純文学、という感じで読みやすく、色々と考えさせられます。本記事が、実際に読むにあたってのなにかの参考になれば幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

『スクラップ・アンド・ビルド』羽田圭介
単行本: 121ページ
出版社: 文藝春秋 (2015/8/7)

『スクラップ・アンド・ビルド』の読了時ツイート

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