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遠藤周作『海と毒薬』感想とあらすじ|日本人の「心の弱さ」と「集合体としての罪の意識の不在」を描く、《イヤノンフィクション》

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23冊目『海と毒薬』遠藤周作

今回は明治の文豪シリーズ。遠藤周作の代表作の一つ『海と毒薬』をご紹介します。

『海と毒薬』遠藤周作
文庫: 208ページ
出版社: 新潮社; 改版 (1960/7/15)

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目次

遠藤周作『海と毒薬』の成分表示(キーワード)

  • 日本人
  • 心の弱さ
  • 「空気」と「狂気」

日本人なら誰でも分かるであろう「空気に流されてしまう」行動論理と、そこから生まれる狂気、悲劇、後悔がエグく描かれた問題作です。

輪の外から見れば絶対に間違っている行為でも、その輪の中の人たちからすれば、だれがこれを止められようか、そして非難できようか…と、読了後に心に暗い影を落としてしまう「嫌な共感」があります。

イヤミスという言葉がありますが、『海と毒薬』の場合はイヤノンフィクという感じでしょうか。

遠藤周作『海と毒薬』のざっくりあらすじと感想

日本人の「心の弱さ」と「罪の意識」を暴いた衝撃作

太平洋戦争の時代。捕虜米兵が臨床実験の被験者として使用された、実際にあった「九州大学生体解剖事件」を題材とした小説。

この臨床実験というのが非常にショッキングで、

  • 血管に500ccの海水を注入する
  • 肺全体を切除する
  • どれだけ出血したら人が死ぬかを確認する

…など、到底倫理的に許される内容ではないものでした。

この臨床実験に数人の医者・看護婦・医学生が関わり、結果的に殺人に加担してしまうことになる過程と心理を、巧みな文章と構成で表現。読み進めるのが辛いのに、逆に読む手は止まらなくなる怪しげな魅力にあふれています。

うまいごす
これも、日本人の心の弱さか…

『海と毒薬』のざっくりあらすじ

新宿から電車で1時間程の「西松原住宅地」に引っ越してきた男。肺気胸の治療のために訪れた「勝呂医院」を営む医者、勝呂二郎と出会う。腕は確かだが、無愛想で無気力。よくよく調べてみると、かつて九州のF市F医大にいたらしい。そして「例の事件」に関わっていた人物らしい…

過去に遡ってF市F医大。志に燃える研究室同級生の戸田と勝呂だったが、病院の権力争いと医療の無力の現実に触れ、また手術の失敗による死の隠蔽も手伝わされ、心が弱っていた矢先に米捕虜の生体実験の助手をする話を持ちかけられる。

看護婦の上田ノブも、夫に不倫され離婚、死産も重なり捨て鉢になっていた最中、同じく人体実験に参加することを余儀なくされる。

最終章では、生きたまま麻酔をかけられ殺される米捕虜の生々しい描写が続く。術後、後悔と自責の念にかられ、茫然自失の状態となった勝呂は立ちすくみ、海を見ていた…

運命から逃げることができない日本人

本作で重要なのは、医学生の勝呂と戸田、看護婦の上田の3名は人体実験に参加することを拒否することもできたのにしなかった、ということです。

ここに日本人の心の弱さが描かれていると同時に、「日本人とはいかなる人間か」という遠藤周作の痛烈な批判的メッセージが込められています。

勝呂はやる気に満ちた医学生。戸田は大人に媚びを売るのがうまいエリート思考の持ち主。上田は真面目な看護婦。三者三様に心が弱っている時に、大きな権力からの誘いと「集合であれば自分だけにはさほど罪はない」という身勝手な意識が、ついには殺人行為もよしとしてしまう、という異常な構図。

冒頭でも書きましたが、日本人であれば悲しいことに共感してしまうでしょう。

本作品の最大の暴力は、直接的ではない日本人の心の弱さです。

そして対極に位置するのが、白人女性のヒルダ。彼女は正義感が強く、悪いことは悪いとはっきり物申すキャラクターとして登場します。

作中では少し主張が強いキャラとして描かれますが、こちらの方が本当は100倍マトモな感性をしていると思います。こんな部分も注目して読んでもらえると良いかも知れません。

『海と毒薬』遠藤周作
文庫: 208ページ
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遠藤周作『海と毒薬』に合う推し曲

The Mars Volta の 「Aberinkula」ですね。叙情的では全く無いので雰囲気は好かれないかも知れませんが、PVを見てみてください。少し笑えるでしょう。こうでもしなきゃ、救いがないので…

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遠藤周作『海と毒薬』の目次

第一章 海と毒薬
第二章 裁かれる人々
第三章 夜のあけるまで

遠藤周作『海と毒薬』の読了時ツイート

『海と毒薬』遠藤周作
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