ビジネス・経済

宇田川元一『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』解説まとめ|人は弱いが、まとまると強い。寄り添う対話の実践学(ナラティヴ・アプローチ)

35冊目『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川元一

 

世の中の問題には「今までの知識で対応可能な問題」「一筋縄では行かないややこしい問題」の2つがある。そして、「ややこしい問題」の方にこそ取り組む価値がある。

 

ただ、それは当然非常にややこしい。だからこそ、この問題を解決することはややこしいと思っている(小泉進次郎風)

 

このややこしい問題の解決の糸口を、「他者(ひと)との対話」を切り口に体系化した一冊です。

 

考え方は非常にシンプル。仕事だけでなく、プライベートでも十分通用する内容です。

 

本書の良い点は、「敵だと思っていた相手を、いつの間にか味方にして」問題を解決できるようにする具体的手法が提示されているところ。これからの時代にピッタリの、戦わない戦い方だと思います。(コッソリ言うと、組織で悩むリーダーだけでなく、恋愛関係、夫婦関係で悩んでいる貴方にもおすすめです)

 

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』
(NewsPicksパブリッシング)
発売日:2019/10/4

 

「NewsPicksパブリッシング」第一弾書籍

NewsPicksは各種経済メディアでのホットなニュースを集めて、有名人(ホリエモンや落合陽一、芸能人、有名企業の社長などなど)をはじめ、誰もが実名で一回だけコメントできる、というアイデアで大人気のサービスです。

▼NewsPicksのリンク
https://newspicks.com/

 

この会社はとても先進的で、セミナーを開催したり本を出版したり、オリジナルの記事や動画もネットにバンバン公開したりして大変おもしろい企画を世に生み出しています。

その中の「出版」ではこれまで幻冬舎と組んで前田裕二『メモの魔力』、堀江貴文『多動力』『ハッタリの流儀』、落合陽一『日本再興戦略』など、これまたヒット作をバンバン出していっています。

 

おそらくその流れからの派生で、NewsPicks社のオリジナルレーベルとして立ち上がったのがこの「NewsPicksパブリッシング」。本書『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』はその第一弾です。

▼NewsPicksパブリッシング
https://publishing.newspicks.com/

 

ちなみに第一弾は、同じくNewsPicks社の現CCOである佐々木紀彦さんの『編集思考』を加えた2冊になります。

『編集思考』の感想まとめ記事も書きました^^

佐々木紀彦『編集思考』感想・まとめ|これは読むべき。2020年以降、生き抜くビジネス感覚を養う一冊37冊目『異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考』佐々木紀彦 いまは、無いものが無いほど、モノで溢れか...

 

これまでのNewsPicks×幻冬舎の本も面白かったですが、少し「売れる本」としての配分が強かった気がします。こちらのシリーズは本格的な比重が強そうな印象。今後も意欲的で多様なテーマのビジネス書の出版を控えているようで、とても楽しみです。

ちなみに本書はNewsPicksアカデミア会員に登録しているので、先行して入手しました。

 

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』の内容と解説

著者 宇田川元一さんについて

経営学者。埼玉大学 経済経営系大学院 准教授。

1977年東京生まれ。2000年立教大学経済学部卒業。2002年同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
社会構成主義やアクターネットワーク理論など、人文系の理論を基盤にしながら、組織における対話やナラティヴとイントラプレナー(社内起業家)、戦略開発との関係についての研究を行っている。
大手企業やスタートアップ企業で、イノベーション推進や組織変革のためのアドバイザーや顧問をつとめる。
専門は経営戦略論、組織論。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。

大学で教鞭を振るう傍ら、実際に企業で「対話」を元に組織を変える指導をされている宇田川元一さん。

本書の後半では、宇田川さんが「対話」を重視するきっかけとなった、人生の辛い経験についても触れられています。

単なる学者の経営理論ではなく、実務として実践されてきたからこそ、汎用化された本書の内容には説得力と深みがありました。

 

「技術的問題」と「適応課題」…あらゆる課題は2つに分けられる

世の中の課題の多くは、大きく下記の2つに分類されます。

 

  1. 技術的問題…既存の知識・方法で解決できる問題
  2. 適応課題…関係性の中で生じる問題(これと言った解決策がみつからない問題)

 

そして、世の中では「適応課題」こそが解決すべき課題であることの方が多いのです。

 

これを解決するのが対話です。

 

どういうことでしょうか?それをわかりやすく表す具体例が本書で触れられています。

 

道具としての関係性から脱却すると、物事が進む

ある会社の2代目となる兄弟経営者の話です。

 

弟は日々「兄は経営者に向いていない!」と不満を漏らしていました。

 

最初は兄の社長として至らない部分にばかり眼を向けていた弟でしたが、宇田川さんが、弟に「兄はどういう気持で日々働いているのでしょうか?」と投げかけました。

 

すると、兄は兄で日々「社長として後を継がなければならないプレッシャー」と戦っていること、その不安の中で無理に意地を張って余計うまく行っていないこと…などがわかりました。

 

弟が「兄の立場」に立って考えることで兄の苦労がわかり、それからは文句を言うのではなく、「兄が社長としてしっかり成長するにはどう協力すればいいのか?」と180度真逆に考えて行動するようになったのです。

 

二人の関係性が、

兄と弟

から、

社長になろうとする兄とそれを支える弟

に変わったのです。

 

ここが本書の超大事なキーポイントです。

 

「私とそれ」という関係は、道具的関係です。

相手を道具として考えて文句を言い、自分の思うように動かそうとする。そうすると反発が生まれ、コミュニケーションはうまくいかなくなり、問題がなかなか解決できません。

 

そうではなく、

「私とあなた」という固有の関係を目指すべきです。

自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向に受け入れあっていく。そうすることで、ややこしい適応課題をクリアしていく。これが本書の伝えたいことです。

 

適応課題は4つに分類される

ところで、人間関係において生まれる適応課題は4つに分類されます。

 

○ギャップ型
大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース。

例えば、「働き方改革は重要だ!」と言われて久しいです。

確かに、仕事だけに人生を奪われてしまうのはもったいないし、大切だなという考え自体は否定しない人の方が多いでしょう。

でも、実際の現場では、「昔バリバリやってきたことで家族を支えてきた上司」がいるし、

その働き方自体に満足しているので、あえて給料を減らしてまで働く時間を減らしてそれでいいの?という雰囲気もあるし、

副業やっても本業でうまく行かなきゃしょうがないでしょ?という気もするし、なんだかんだでうまく行かない。そんな感じの状態がギャップ型です。

 

○対立型
互いのコミットメントが対立するケース。

これは、「部署間の対立」が一番イメージしやすいんではないでしょうか。

 

○抑圧型
「言いにくいことを言わない」ケース。

なにか言うと、自分に不利な状況になってしまう。そもそも良い解決策があっても上司には言えない…というケースです。非常に多いと思います。

 

○回避型
痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース。

例えば、「新規開拓」が会社全体で取り組まなければならない問題だとします。

でも、これを社を上げて取り組むと非常に予算がかかる。時間もかかる。短期的には数字がでない。

だから、焼け石に水の対策しか打てない。

というケースもよくあるのではないでしょうか。抑圧型と同時発生しそうです。

 

そして、この4つの状態をクリアするために知るべき言葉が「ナラティヴ」です。

 

「ナラティヴ」を知ると問題が解決できる

「ナラティヴ」とは、語りと訳されますが、本書では「物語を生み出す《解釈の枠組み》」として紹介されています。

 

つまり、一つの問題でも、その問題を語る人ごとに視点・解釈の違い。ナラティヴがある。

 

一つの問題でも、2人関われば2つ。100人関われば100つのナラティヴがある。

 

それをしっかり理解して、お互いの関係性を見直すことで、問題解決の糸口にできる。ということです。

 

要するに、

相手の気持ちに立って考えようぜ!ということです。

 

以上、解散!

…と言っては元も子もないですが、これが非常に大事な考え方です。ここまで本当に理解できれば、本書の半分は理解できたも同然です。

 

ナラティヴを使って問題を解決する4つの手順

ここまで理解できればあとはやるのみです。手順は4つ。これを繰り返していけば、解決できない問題はほぼないでしょう。それくらい本質的で汎用的な考え方です。

 

「準備」→「観察」→「解釈」→「介入」

 

です。このループを実践していきましょう。

 

対話のプロセス1.準備「溝に気づく」

まずは、なぜ問題が起きているのか?考えてみると、自分のナラティヴと相手のナラティヴに差があることに気が付きます。だから噛み合わないのだと気がつく。これが第一ステップ。

 

対話のプロセス2.観察「溝の向こうを眺める」

そして次に、相手のナラティヴに立って自分を眺めてみると、どう見えるのでしょうか?

相手の気持になってみたら、自分が正しいと思ってやっていたことも、ただの傍若無人な振る舞いになっていることに気づくかも知れません。相手には何のメリットもないことを、正論を振りかざしていただけに過ぎないかも知れない。

 

対話のプロセス3.解釈「溝を渡り橋を設計する」

状況が把握できたら、お互いのナラティヴにメリットのあることはなにか?を考えてみます。ウィンウィンであれば、問題はないはずです。

 

対話のプロセス4.介入「溝に橋を架ける」

これまでの仮説を元に、実際に行動に移すのが「介入」です。

これでお互いがハッピーになれれば解決(もしくは前進)。うまくいってもいかなくても、再度準備に戻ってループしていくことで、問題をどんどん前向きに進めていくことができます。

 

そして、お互いのナラティヴにきちんと橋がかかると、「適応課題」だったはずの課題は「技術的問題」になり、既存の知識や枠組みで問題を解決できるようになるのです。

 

そしてまた、この対話を繰り返すことで、反脆弱的な組織にしていくことができる。

反脆弱的とは「問題や困難に直面すればするほど強くなる性質」のこと。叩けば叩くほど、結束力が高まる組織は、ある意味理想の組織。無敵の組織と言えるでしょう。

 

対話を妨げる5つの罠

具体的な実践例は本書に譲りますが、最後に、対話を妨げる5つの罠について紹介します。

 

対話の罠①「気づくと迎合になっている」

「相手の気持ちに立って考える」のがナラティヴ・アプローチですが、決して迎合や忖度に陥ってはいけません。

迎合、忖度は、橋を渡ったまま帰ってこないことです。

対話は橋をかけてお互い行き来できるようにすること。

対話の意義は、相手に取り入って偏屈になるのではなくて、「組織の中で誇り高く生きること」なのです。そのうえで適応課題をクリアすることを心がけていきましょう。

 

対話の罠②「相手への押しつけになっている

社長や幹部などが「意見を聞くよ!」と言っても、人は裸の意見は言ってくれません。

例えば「社長と社員」であれば、対話が100%成功することはないでしょう。

ようするに「権力は対話を妨げる」のです。

どうしても、社長からの要求は相手への押し付けになってしまいます。これは解決しづらい問題だけど、認識しておくことが重要です。

 

対話の罠③「相手と馴れ合いになる」

関係性を維持するために、言いたいことが言えない抑圧型の適応課題が生じることがあります。

これは、良い関係ができたことの裏返しでもあるので難しい問題ですが、「違和感がある」ことを口に出さないままにすると、余計問題はこじれてしまうので、勇気を持って「言うことは言う」という環境を作ることが大事です。

 

対話の罠④「他の集団から孤立する」

良い関係ができると、他の集団からは「ついていけないよ」などと熱量の差を理由に煙たがられたりします。

それはある意味しょうがないですが、一部の人が仕切りだすと内部でもナラティヴの差が生まれることがあります。

全体の意見が尊重される「発表の場」を設けるなど、常に改善できる取り組みをプラスすることが良いでしょう。

 

対話の罠⑤「結果が出ずに徒労感に支配される」

対話をしようと努力することはとてもエネルギーの要ることです。それがなかなかうまくいかなければ、非常にしんどいでしょう。

そんな時は、休憩してみる。極論、別の組織で頑張ってみる、ということも本書では推奨されています。

自分を壊してまで対話をすることはないのです。

 

まとめ

簡単にまとめます!

本書のまとめ

・世の問題は「技術的問題」と「適応課題」に分かれる

・誰もが違う視点(ナラティヴ)を持っている

・ナラティヴの溝を理解して、お互いに橋を架けよう

・その手順は「準備」→「観察」→「解釈」→「介入」

・橋がかかると「適応課題」は「技術的問題」になり、解決しやすくなる!

いかがだったでしょうか。人間は1人だと孤独な生き物ですが、まとまると強い。そのために、ナラティヴ・アプローチによる対話ができれば、どんな会社やプライベートでも事態を好転できるようになると思います。

毛利元就は「矢は一本だと簡単に折れてしまうが、三本束ねれば折れなくなる」と言っています。そんな、ひとりひとりの強みを発揮できる”毛利元就型組織”をつくることができるナラティヴ・アプローチは知っておいたほうがいいでしょう。

少々固い表現もありますが、とても読みやすくわかりやすい。そしてなにより宇田川さんの強い想いを感じる内容になっていますので、人間関係で、組織で悩んでいる方は読んでおいて損はない一冊です。

 

『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』
(NewsPicksパブリッシング)
発売日:2019/10/4

 

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『他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論』の目次

はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか

第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
兄弟経営者の対話「兄は経営者にふさわしいのか?」
道具としての関係性からいかに脱却するか
一方的に解決できない4タイプの「適応課題」
経営危機に瀕したスターバックスの変革
誰しもが持つ「ナラティヴ」とはなにか
[コラム]語りと物語とナラティヴ・アプローチ

第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
「溝に橋を架ける」ための4つのプロセス
対話のプロセス1.準備「溝に気づく」
対話のプロセス2.観察「溝の向こうを眺める」
対話のプロセス3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
対話のプロセス4.介入「溝に橋を架ける」
「上司が無能だからMBAに来た」というナラティヴ
よい観察は発見の連続である
よい解釈には「相棒」を求めよ
曖昧な問題をいかに明確な問題に捉え直すか
介入というアクションが、次の観察の入り口でもある
対話のプロセスは繰り返す
私とは「私と私の環境」である
対話を通して「反脆弱的」な組織へ
[コラム]新たな現実を作ることが最高の批判である

第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
総論賛成、各論反対を生き延びる
共通の成果を設定する
検証が二巡目の対話へつながる鍵となる
ナラティヴに招き入れる
[コラム]自身のナラティヴの偏りと向き合うこと

第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
上司から部下へと連鎖する適応課題
フラットになれる場を設定する
弱い立場ゆえの「正義のナラティヴ」に陥らない
つながりの再構築で孤立を解消する
[コラム]インテルはなぜ戦略転換できたのか

第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
現場を経営戦略を実行するための道具扱いしない
仕事のナラティヴの中で主人公になるには
権力の作用を自覚しないとよい観察はできない
マネジメントスタイルを組織のナラティヴに合わせて変える
回避型における対話のポイント
[コラム]対立から対話へ

第6章 対話を阻む5つの罠
対話の罠①「気づくと迎合になっている」
対話の罠②「相手への押しつけになっている」
対話の罠③「相手と馴れ合いになる」
対話の罠④「他の集団から孤立する」
対話の罠⑤「結果が出ずに徒労感に支配される」
[コラム]落語とナラティヴ

第7章 ナラティヴの限界の先にあるもの
ナラティヴ・アプローチの医療の研究から
自分を助けるということ

おわりに 父について、あるいは私たちについて

謝辞
参考文献

本のことなら《ざっくり庵》

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