青山美智子『リカバリー・カバヒコ』をネタバレ無し、6つの指標でガチ採点!
自分が書店員なら、こうやって本屋大賞ノミネート作品を売りたい!
「本屋大戦2024」!!
2024年本屋大賞のノミネート10作品を一作ずつ読み、忖度なしで、できるだけ客観的に採点していきます。
ガチ採点企画「本屋大戦」趣旨とルール説明(簡略版)
こんにちは。肩こりの話を聞いていると肩がこってくる、どうでも良い影響を周りから受けやすいうまいごすです。
自分が書店員だと仮定して本屋大賞ノミネート作品のランキングを勝手に決めてやる!という企画「本屋大戦2024」。
勝手に採点すると言っても、主観的に点数を決めるだけだと面白くないので、
5つの客観的な指標+1つの超主観的な指標
をもとに採点します。それぞれの指標はこちら。
- 万人にオススメ度
- 入口にも最適度
- コア層も満足度
- 皆で語りたい度
- 時代ピッタリ度
- 俺が布教する度
なお、独自のランキングを決める企画であって「本屋大賞の順位予想」ではありません。既に10作すべて読み終えて自分の中でランキングは決まっていますが、これと実際のランキングは連動しないと思います。
全国の書店員さんの投票ではなく、私という一人の妄想書店員の勝手ランキングですので、ご了承下さい。
それでも納得性は高いものにできればいいなと思います。
今回のノミネート作品は下記の10作品。
そしてもはや大賞は『成瀬は天下を取りにいく』に決まりましたね!!おめでとうございます!!!
- 川上未映子『黄色い家』
- 小川哲『君が手にするはずだった黄金について』
- 津村記久子『水車小屋のネネ』
- 夏川草介『スピノザの診察室』
- 塩田武士『存在のすべてを』
- 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』→実際の本屋大賞!!
- 知念実希人『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』
- 凪良ゆう『星を編む』
- 青山美智子『リカバリー・カバヒコ』
- 多崎礼『レーエンデ国物語』
ネタバレは極力控えて、未読の方でも「この本を読みたい!」あるいは「この本はまぁいいや!」と感じてもらえるような忖度のない紹介にできればいいなと考えています。
YouTubeチャンネルの方でもしっかり解説しているので、よろしければぜひこちらも御覧ください!
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』紹介と感想
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』あらすじ
5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。
公式サイトより
近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで“リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。
泰斗の頭、紗羽の口、ちはるの耳、勇哉の足、和彦の目、の5つの連作短編集になっていて、あらすじの通り、心がほっこりじんわり、ココアの様に温まる作品になっています。
『リカバリー・カバヒコ』を一冊通して読み終えた後、もしも「一回も共感したシーンが無かった」と言う奇特な人がいたら一度お目にかかりたい。なぜなら、そんな人はいないから。そう思えるほどに人の心に全方位から優しく迫る癒やしのカバ本です。
これ以上に癒やしてくれるカバ本を私は知りません!!
(そもそも、カバ本って……?)
本屋大賞の神に愛されまくる作家・青山美智子
青山美智子さんの作品は
・『お探しものは図書室まで』が2021年本屋大賞で2位
・『赤と青とエスキース』が2022年本屋大賞で2位
・『月の立つ林で』が2023年本屋大賞で5位
そして、2024年本屋大賞に『リカバリー・カバヒコ』がノミネートされ、7位を受賞!という、本屋大賞の神に愛されまくる作家さんです。
私はこれまで『赤と青とエスキース』と『月の立つ林で』の2作品を読みました。どちらも素晴らしい作品でしたが、個人的には『月の立つ林で』がものすごく好きです。電車で座っていた隣のおじさまが次の駅で席を立つほどに号泣してしまいました。
私が青山美智子作品の好きな所は、一貫して「読者の心に寄り添う温かさ」があるという、「心のパワースポット」になってくれる点です。青山さんという人間を深く知らない癖によく言うよ、と思われるかもしれませんが、この温かさはおそらく青山さん自体の人間の優しさが作品ににじみ出ているのだと、そう思わざるを得ません。
いたずらに「死」を感動の要素にしてこない、真っ向勝負で優しいストーリー
『リカバリー・カバヒコ』も5つの短編でまさに縦横無尽にパワスポってくれる訳ですが、もう一点私が好きなのが簡単に「死」を感動の要素として取り入れてこないという所です。あくまで、挫折や不安、悲しみや怒り、嫉妬、などの人間が持っている感情のマイナス部分を包み込み、最終的に成長したり別の形でプラスに昇華させてくれるという、物語一本で勝負してくる所がとても清々しいなと感じるんですね。
他の方の作品をどうこうというわけでは全然ないですが、メインの登場人物が途中で劇的に死んでしまったら、そりゃもう読者が強制的に感動のステージに上げられてしまうじゃないですか。この劇面白いなぁ~ってなんとなく見てたら、いきなり「死」という演者が自分を指さしてきて
「そこの単発メガネで青のボーダーのシャツを着ている小太りの貴方!ステージに上って来て下さい!世界を救うのは貴方しかいないのです!」
ってもう強制的に登場人物にさせられる感じですよね。感動しないわけには行かなくなってしまうんですよ。もちろん「死」が大事な要素になっている作品でも、大好きなものもたくさんあるんですけど、やっぱり大技感があるなとは思ってしまいます。
『リカバリー・カバヒコ』には、そういうアルゼンチン・バックブリーカーの様な大技はかましてこないので安心して物語に入り込む事ができます。それぞれの話のメインキャラも老若男女、様々な職業の人物が出てくるため、偏りもなくまんべんなく楽しめるように書かれているのがとても上手だなと思います。
どのお話も50ページ弱で読みやすく、しっかりドラマティックです。
とにかく「カバ」に癒やされろ!!!!
そして、表紙のカバ。この情けないようなかわいげのあるようなゆる~い愛されフェイスのカバヒコ君の存在、とても大事な役割を果たしてくれます。「カバに触れた部分と同じ自分の箇所が回復する」という都市伝説です。なんかいいですよね。私だったらこの間抜けた頭をフルリカバリーしていただくために、迷わずカバヒコ君の頭蓋に両手を差し込んで全脳を小一時間なでなでしたいと思います。
読者を心地よくパワスポってくれる作品。青山美智子作品が好きな方はもちろん、どんな方でも心が疲れた時、元気が欲しい時にぜひ手にとっていただきたい作品です!
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』ガチ採点&解説
それではいよいよ、本屋大戦2024の採点に参ります。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』の点数は…
・🤗万人にオススメ度:9点
・🔰入口にも最適度:9点
・💪コア層も満足度:4点
・🗣️皆で語りたい度:6点
・🆕時代ぴったり度:6点
・🤠俺が布教する度:5点
✨合計推し点数(60点満点):39点✨
と、言うことで気になる順位は……暫定2位となりました!
暫定1位の『黄色い家』42点に一歩及ばず!という形となりました。それではそれぞれの採点の理由を解説していきます。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』万人にオススメ度:9点
まず「万人にオススメ度」。「老若男女」どんな人にもおすすめできるかどうか…という観点でみると、『リカバリー・カバヒコ』はまさに万人にお薦めするためにある小説と言っても過言のないものなので、文句なしに高得点をつけたいと思います。ただ、後から説明するたった一つの理由によって、満点に近い9点とさせていただきました。
もちろんイヤミスが読みたい人、とかミステリが読みたい人、とか本を読んでダーク落ちしたいんじゃ!みたいなそういったそもそも本作のジャンルに興味がない人に対しては自分が書店員だとしてもちろんおすすめはしませんが、そこまで言い始めたらキリがないので、そういうのは除外して考えたうえでの9点です。
間違いなく、万人におすすめできる一冊です。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』入口にも最適度:9点
に「入口にも最適度」。この項目で重視している「文章が読みやすいかどうか」「これから本を読み始めたいという人に「読書」の楽しさを知ってもらうための一冊目として最適かどうか」と言う点では満点だと思っています!ただ、先ほどの「万人にお薦め度」でチラッと話した、満点に至らないたった一つの理由なのですが、もう一つこの「入口にも最適度」で重視している最後の「その作家さんの作品の入門編としても良いかどうか」と言うところでわずかに引っかかるわけです。
それは何かというと、今回の『リカバリー・カバヒコ』と前作『月に立つ林で』は、物語の構成が非常に良く似ている、瓜二つの作品だということ。
そして、個人的には『月に立つ林で』のクオリティがあまりにも高過ぎると言うことです。
似た様な形式であれば、やはり個人的に電車で大号泣した『月に立つ林で』を先に読んで欲しいと思うわけです。なので、別に『リカバリー・カバヒコ』を先に読んで次に傑作の『月に立つ林で』に行ってもらっても全然構わないんですが、その点を考慮するとどうしても満点にはできず、9点とせざるを得なかったと言う所に着地しました。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』コア層も満足度:4点
これはまぁ濃厚な読書体験、と言うことと、コア層、をどう捉えるかで結構変わってくるとも思うんですが、『リカバリー・カバヒコ』はそもそも濃厚な読書体験を狙って書かれた作品ではないはずです。
誰でも、サクッと読めて心じんわりできる。それこそが青山美智子さんの狙いだと思います。違ったら申し訳ないですが。
だからこそ、コア層も満足度を高くするのはやはり違うのではないかなと。そして、青山美智子作品を知る人であれば、さっき言った前作『月の立つ林で』の素晴らしさを知っているはずなので、『リカバリー・カバヒコ』ももちろんいいんですが、ファンであればやはり前作に軍配を上げるのではないかと思うんですね。
『月の立つ林で』が何作も前の作品なのであればいいんですが、2作続けて似た構成だと言う事を考慮して、『リカバリー・カバヒコ』のコア層も満足度は4点としました。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』皆で語りたい度:6点
続いての「皆で語りたい度」は、7点に近い6点、と言う感じです。
本書で読書会をやったら盛り上がるでしょうね!なにしろ老若男女読んだ人の感想がすべて異なるだろうし、賛否両論含めて誰もが鋭い意見を持つことができそうな作品だからです。
学生から社会人まで色んな人が混ざった読書会、やってみたいですね。楽しそう!
あと学校の先生なんかは道徳の授業でこの本を使ってもいいんじゃないでしょうか。かなり優秀なテキストになる気がします。
ここまで言ってるけど満点じゃない理由は、万人受け要素が強い事ですね。語るとしたらすっごいディープな所まで行きたい人もいっぱいいるはずで、そう言う人たちのニーズまではちょっと満たせないかな〜と感じちゃうとこがあります。なのでちょっと厳しいけど6点!
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』時代ピッタリ度:6点
そして次に「時代ピッタリ度」。これは6点としました。
理由は単純で、『リカバリー・カバヒコ』はいつ読んでもいい作品だと言う事です。
むしろ、自分の心が少し沈んでるな、元気が欲しいな、誰かに気持ちを後押しして欲しいな、と言う時にこそ読むべき作品で、おそらく絶好調メンタル無敵無双状態の時に読んでしまうと、むしろ逆にせっかく良い作品なのにまったく刺さらなかった…という残念な結果になってしまう可能性があるということです。
そういう意味でフラットな5点をベースとして、でもやっぱり現代は癒やしを求める時代でもあるので気持ち一点プラスした6点、という形です。
青山美智子『リカバリー・カバヒコ』俺が布教する度:5点
最後に「俺が布教する度」です。これはフラットな5点としたんですが、何度もしつこく言っているように、私が書店員だとして布教したいのは前作の『月に立つ林で』の方なんですよ。だから5点です!
以上、それぞれの点数を合計した結果が39点という形になりました!
さぁ、2024年本屋大賞ノミネート作品は残す所8冊!一体誰が本屋大戦2024のグランプリとなるのか?
次回の対戦者は、凪良ゆう『星を編む』です!
YouTubeの方では結構頑張って番組風に編集したので、チャンネル登録、高評価ボタンを押していただき、次回の大戦に備えていただければ嬉しいです!最後まで見ていただきありがとうございました!
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