道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)
各章の最後に示された「1枚の写真」で、物語が一変する…という「意味がわかると怖い話」に写真を組み込んだ、前作も大きく話題を読んだ画期的な〈体験型ミステリ〉第二弾。今回も悪意に満ちた仕掛けが、読み手を震わせます。
写真はパッと見た瞬間に「なるほど!」とわかる様なイージーな仕掛けではなく、まずは強い違和感を覚えて、ページを戻り、あの箇所を確認して、「え…?嘘…なにこれ…マジで…?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」とじわじわくるような、推理の歯ごたえもある大人向けの内容。個人的にはR-15指定。オススメです。
今回は、最後の写真の意味も含めて個人的に解読した答えと物語の真の結末の考察にも後半で触れています。後半はガッツリネタバレになるので、未読の方はご注意ください。ネタバレするタイミングで、合図を出しますね。
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)の目次・あらすじ
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)の目次
正直、終章を伏せ字にする意味はよくわからないのだけど、公式サイトがそうしているから同じ様に一応伏せときます。
- 第一章 明神の滝に祈ってはいけない
- 第二章 首なし男を助けてはいけない
- 第三章 その映像を調べてはいけない
- 終章 ?????????はいけない
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)のあらすじ
↓公式サイト「文藝春秋BOOKS」より。
大きな話題を読んだ”体験型ミステリー”第2弾。
第一章「明神の滝に祈ってはいけない」
桃花はひとり明神の滝に向かっていた。一年前に忽然と姿を消した姉・緋里花のSNS裏アカウントを、昨晩見つけたためだ。失踪する直前の投稿を見た桃花には、あの日、大切にしていた「てりべあ先生」を連れて姉が明神の滝に願い事をしに行ったとしか思えない。手がかりを求めて向かった観瀑台で桃花が出合ったのは、滝(、)の(、)伝説(、、)を知る人物だった。第二章「首なし男を助けてはいけない」
夏祭りの日、少年は二人の仲間を連れて大好きな伯父さんを訪ねる。今夜、親たちに内緒で行う肝試し、その言い出しっぺであるタニユウに「どっきり」を仕掛けるため、伯父さんに協力してもらうのだ。伯父さんは三十年近くも自室にひきこもって、奇妙な「首吊り人形」を作っている。その人形を借りて、タニユウの作り話に出てきたバケモノを出現させようというのだ。第三章「その映像を調べてはいけない」
「昨夜……息子を殺しまして」。年老いた容疑者の自白によれば、息子の暴力に耐えかねて相手を刺し殺し、遺体を橋の上から川に流したという。だが、その遺体がどこにも見つからない。必死で捜索をつづける隈島刑事は、やがてある「決定的な映像」へとたどり着く。彼は先輩刑事とともに映像を分析しはじめ――しかし、それが刑事たちの運命を大きく変えていく。そして、書き下ろしの終章「????????はいけない」
公式サイト「文藝春秋BOOKS」より
――すべての謎がつながっていく。前作を凌ぐ、驚愕のラストが待つ!
各話の最終ページにしかけられたトリックも、いよいよ鮮やかです。
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)読了時ツイート
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)はこんな人にオススメ
- リドルストーリー(結末を明示しないで終わる話)が好き!
- 終盤であっと驚く体験がしたい!
- 新しい読書体験がしたい!
- 怖い話、ホラー、ミステリが好き!
- 自分で推理したい!
- 黒い道尾秀介が好き!
- 前作『いけない』が面白かった!
ある意味、最後のページの写真は「読者への挑戦状」的な要素を含んでいるので、自分でラストの意味を紐解けた時に走る快感&寒気は堪りません。
話は結構ダークなので、明るく楽しい話が読みたい!という方には向いていません。
まあ、こんな表紙なのでそういう方は最初から手に取らないでしょうが…
で、そういう方はカバーを外すこともないでしょうから、中の装丁もお見せしますね。いや怖いっしょ。
道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)に張り巡らされた罠にハマらずにはいられない!
書き下ろしの終章を含む4篇、どれも最後のページに1枚の写真があります。これで話の表情がガラリと変わる仕掛けが施されているわけですが、その仕掛けがなくても一応物語としてはちゃんと完結します。
しかし写真を見た瞬間、ブワッと物語に違和感が生じます。この気持ちはなんだろう。(byキュンタ君)
ただ、一読しただけでは写真を見た瞬間にその謎が解けるほど勘が良い私ではないので、その違和感の正体がなかなか拭えなくてモヤモヤします。この気持ちはなんだろう。(byキュn)
今回考察するために再読して違和感の正体を突き止めましたが、流し読みする人はわからないまま一生を終えてしまうかも知れません(!?)
写真の謎と合わせて、文章の中に結構罠が仕掛けられているので、これも読み返すと面白いですよ!
【ネタバレあり】道尾秀介『いけないⅡ』(『いけない2』)各話の登場人物の整理と最後の写真の意味の考察
既読の方向けの考察になるので、物語の細かい解説まではしません。解釈は個人的なものなので間違ってたらゴメンナサイ。もっと詳しい人、何かツッコミあったら教えてください!
「第一章 明神の滝に祈ってはいけない」登場人物
◎小澤桃花 主人公
◎小澤緋里花 桃花の姉 失踪 当時高2
◎小澤母 経過観察中 牡丹バタで働く「小澤種苗」
◎小澤父 帰宅が遅くなるのを嫌う
◎大槻 59歳 観瀑台清掃 避難小屋の管理人 父の死後30歳で継ぐ
◎大槻の父 避難小屋の管理人 御光川の河原で心臓麻痺で遺体発見
◎大槻の母 29年前に失踪
◎隈島 箕氷警察署の新人刑事 30歳前後
「第一章 明神の滝に祈ってはいけない」最初と最後の写真の意味の考察
◎最初の写真
・祈るダッフルコート姿の女性
・胸にクマの刺繍
・落ち葉
→この写真には最初は違和感は覚えない。が…
◎最後の写真
・避難小屋の入り口の写真
・左に干支だるま、右に雪だるま
・干支だるまが「丑(うし)」→ここに違和感を覚えるはず
◎最初の写真の意味
・祈るダッフルコート姿の女性は姉・緋里花だと思わせておいて、妹・桃花
・明神の滝の観瀑台で祈って大槻を撒こうとしていた桃花を撮影したもの
・この写真を撮影したのは、避難小屋の管理人である大槻
・よく見ると、指を組んで手を合わせて祈っている指が9本しかない。
・桃花は、潰された右手の中指を下に隠すようにして指を組んでいた。(よ~くみると、右手の中指が下に入っている様なシワが見える)。
・この写真の撮影後、首をかしげて大槻はこの写真の違和感に気づき、桃花は観瀑台で殺された
◎最後の写真の意味
・本章は、交互に挟まれる桃花の章と大槻の章で時間軸が異なる。桃花の章は姉・緋里花を追って大槻に殺される前まで。大槻の章は桃花を殺した一年後、冷凍庫が故障して自殺するまでの話。
・本編の桃花の章では干支だるまの事を「ネズミ」と明記している。大槻の章では「しっぽがクルン」という表現しかしていない。ネズミもウシも、たしかに「しっぽがクルン」なので騙される。
「第二章 首なし男を助けてはいけない」登場人物
◎真 大野真 はなが溜まって変な声になる、興奮するとなおる
◎ヨッチ 下の名前が良喜
◎ハタケ 畑山 唯一スマホ持っている(金持ち?)
◎タニユウ 谷森裕樹
◎真の父 不動産会社の営業マン
◎真の母
◎真の伯父 祖母の家で人形作っている 引きこもり 声がでない
◎真の祖母
◎真の祖父 30年近く前に死亡
「第二章 首なし男を助けてはいけない」最後の写真の意味の考察
◎最後の写真
・部屋の開けた窓の柵に、濡れたつなぎがかけてある
・右手前に首吊り男の人形…人形???
◎最後の写真の意味
・右手前にある首吊り男の人形は、人形ではなく首吊り自殺をした真の伯父さん。
・真が車で「人を殺しちゃったの?」と聞いたつもりだったのが、伯父にとっては過去に川で溺れ死んだ祖父の原因が伯父であると指摘するようなセリフで伯父を追い詰めてしまったために、伯父は自殺した。
「第三章 その映像を調べてはいけない」登場人物
◎隈島 刑事 30歳
◎戸頃 刑事 56歳 ベテラン
◎千木孝憲 父親 自主してきた
◎千木智恵子 孝憲の妻
◎千木孝史 孝憲に殺された息子
「第三章 その映像を調べてはいけない」最後の写真の意味の考察
◎最後の写真
・益子町コスモス祭りの写真
・1997/10/10 3:24:06PM
◎最後の写真の意味
・孝史の好きだった花は「サザンカ」ではなく「秋桜(コスモス)」
・益子町に行った思い出の話が登場する
・孝史の遺体は、千木家の今のコスモスの一輪挿しの下に埋まっている。
・終章でも言及されているが、父・孝憲はドラレコの映像を警察に調べさせて夜目ヶ森に捜索の目を向けさせて、孝史が見つからないようにするために仕掛けていた。タバコも実際は吸っておらず、ドラレコに映るようにわざとガス切れのライターを擦って火花を散らしたりした。
「終章 祈りの声を繋いではいけない」登場人物
◎千木智恵子 罪の意識に苛まれている
◎小澤姉妹の両親 緋里花の帰りを待っている
◎隈島刑事 事件を追っているが解決できてない
◎真 伯父が死んだショックで声がでなくなっている
「終章 祈りの声を繋いではいけない」最後の写真の意味の考察
◎最後の写真
・床頭台に置かれたスマホに「桃花」からの着信表示
→死者からの電話?ゾゾゾ…と一瞬思いますが、変です。
◎最後の写真の意味
・電話をかけているのは死者の桃花ではなく「小澤夫妻」。
・本文中で、桃花の携帯端末は死体から染み出た液体と冷凍庫で使い物にならなくなり解約、桃花の電話は小澤父名義で契約していたので新しいのを買って、番号だけ引き継いだ。緋里花の携帯に定期的に電話をかけていつか緋里花が出てくれる日を待っている、という記述がある。
・生きていれば20歳の誕生日に、緋里花が電話に出てほしいとの願いを込めてかけた電話が、病院にある智恵子の床頭台の上に持ってきていたスマホを鳴らした、という結末。
◎終章の「祈りの声を繋いではいけない」のタイトルの意味
・声を失った真の祈り「またしゃべれるように」
・智恵子の祈り「もう、ぜんぶ終わらせてほしい。どんなかたちでもいいから」
・隈島の祈り「俺に事件を解決させてください」
・そして小澤夫妻の祈り「緋里花が無事に帰ってきますように」
すべての祈りが繋がり、真は声を取り戻し、隈島は桃花からの着信を見て事件を解決し、智恵子は逮捕されぜんぶ終わらせるということができた。
しかし、明神の滝に祈った訳ではない小澤夫妻の祈りは、届かなかった。という残酷な結末。
というのが私の解釈です。違ったらゴメンナサイ。最後までお付き合いいただきありがとうございました!
前作、道尾秀介『いけない』(いけない1)の写真の意味の考察についても記事を書きました。こちらもぜひ!